kazz の数学旅行記

数学の話題を中心に, 日々の知的活動の旅路を紹介します.

正方行列の同時対角化の問題

某質問サイトで見かけた問題ですが、

 

正方行列の同時対角化の問題について、ここで論じます。

 

 

 

 

 

 

 

ここでは、以下の定理を証明します。

 

定理

 

K を可換体、n > 1 を自然数, E = K^n, A_1, ..., A_k を End_K (E) の

 

k 個の元で、そのどれもが対角化可能であり、

 

さらに、任意の i, j ∈{1, ..., k} に対し、A_i A_j = A_j A_i なるものとする。

 

この時、K^n の基底 (u(1), ..., u(n)) で、この基底に関する

 

任意の A_i (1≦i≦k) の表現行列が、対角行列になるようにできる。

 

 

 

 

証明

 

k についての帰納法による。

 

k = 1 の場合は明らか。

 

k = 2 の場合。A_1 = A, A_2 = B とおく。

 

A の固有値の全体を {a_1, ..., a_s} と並べ、A の固有値 a_i に関する

 

E の固有部分空間を E_i とする (1≦i≦s)。

 

仮定より、各 E_i  (1≦i≦s) は End_K (E) の元 B で安定だから、

 

制限により、B は E_i の自己 K 線型写像 B_i∈End_K(E_i) を導入する。

 

ここで、B_i (1≦i≦s) の最小多項式は、B の最小多項式を割り切るから、

 

B_i の最小多項式は、すべての根を体 K 内に持ち、

 

それらの根は単根である (1≦i≦s)。

 

よって、各 B_i (1≦i≦s) は対角化可能である。

 

よって、各 B_i (1≦i≦s) を対角行列 U(i) として表現する、

 

E_i の K 上基底 (v(i, j))_{1≦j≦n(i)}

 

が存在する。ここに、n(i) = dim_K (E_i).

 

よって、1≦i≦s に対し、対角成分に U(i) を持つ対角行列 U は、

 

E の基底 (v(1, 1), ..., v(1, n(1)), v(2, 1), ..., v(2, n(2)), ..., v(s, 1), ..., v(s, n(s)))

 

= (u(1), ..., u(n)) に対する B の表現行列で、これは、

 

B の対角化になっている。

 

一方、E の基底 (u(1), ..., u(n)) はその一つ一つが A の固有ベクトルだから、

 

(u(1), ..., u(n)) に関する A の表現行列 V は、対角行列である。

 

これで、k = 2 の場合が示された。

 

 

 

 

 

k>2 の場合

 

やはり、A_1 の固有値の全体を {a_1, ..., a_s } と並べ、

 

各 a_i に対し、A_1 の固有値 a_i に関する E の固有部分空間を E_i とおく。

 

以下、1 < j ≦k とする。

 

仮定より、各 E_i は A_j で安定で、A_j は制限により、

 

E_i の自己 K 線型写像 A(j, i) を導入する。

 

A_j についての仮定より、任意の i, p, q (1≦i≦s, 2≦p, q≦k) に対し、

 

A(p, i) A(q, i) = A(q, i) A(p, i)

 

となり、また、k = 2 の場合により、各 A(j, i) は対角化可能だから、

 

帰納法の仮定より、

 

E(i) の基底 (v(i, 1), ..., v(i, n(i))) が存在し、 (v(i, 1), ..., v(i, n(i))) に関する

 

任意の A(j, i) (2≦j≦k) の表現行列 U(j, i) は対角行列となる。

 

よって、E の基底

 

(u(1), ..., u(n)) 

 

= (v(1, 1), ..., v(1, n(1)), v(2, 1), ..., v(2, n(2)), ..., v(s, 1), ..., v(s, n(s)))

 

に関する A_j の表現行列 U(j) は、U(j, i) (1≦i≦s) を

 

対角成分に並べたものだから、対角行列になる。

 

一方、各 u(i) は A_1 の固有ベクトルだから、E の基底

 

(u(1), ..., u(n)) に関する A_1 の表現行列は、

 

対角行列となる。

 

これですべてが示された。

 

 

 

 

以上の証明は、私が自分で考えたものではありますが、

 

この程度のレベルの問題だと、すでに誰かが同じようなやり方で

 

証明を与えていることと思います。

 

 

 

 

文責: Dr. Kazuyoshi Katogi