kazz の数学旅行記

数学の話題を中心に, 日々の知的活動の旅路を紹介します.

茨城大学理学部 ベクトル解析 2008 講義ノート詳細版 について part 1

今回は、何回かに分けて、大学院時代の私の指導教授が

 

学部生向けに担当されていた、

 

ベクトル解析 2008 講義ノート詳細版について、

 

誤りの訂正と、証明の簡略化を少々行いたいと思います。

 

これをお読みの方で、実際に 2008年度、茨城大学理学部で、

 

ベクトル解析の講義を受けたことのある学生さんがいらっしゃいましたら、

 

ぜひ、講義ノートと、私の記事を比較参考にされてください。

 

ちなみに、この記事の公開が今頃になってしまったのは、

 

単に私が生活に追われて、忙しかったからです。

 

やはり、ある程度の時間を作らないと、だめですね。

 

 

 

 

 

まず最初は、ここは直しておいたほうがいいだろう、という、誤りの訂正です。

 

講義ノート p.43 (シュワルツの提灯関連) に、公式

 

lim_{x→0+} (1- cos x)/(x^k) = (-1)^{[k/2] + 1}/(k !) if k≡0 mod. 2

 

lim_{x→0+} (1- cos x)/(x^k) = (-1)^{[k/2] + 1}・∞ if k≡1 mod. 2

 

とありますが、この公式は間違っています。

 

間違いの原因は、ロピタルの定理の乱用です。

 

以下に、正しい公式を導出します。

 

まず、テイラーの公式より、x → 0 のとき、

 

cos x = 1 - (x^2)/2 + O(x^4)

 

となります。

 

ここに、正数 M が存在し、x が十分小さい時、

 

|O(x^4) | ≦ M x^4

 

となります。

 

(実際、M = 1/24 と取れる。)

 

よって、k = 2 のときは、x → 0+ のとき、

 

(1-cos x) / (x^2) = (((x^2) / 2) - O(x^4)) / (x^2) → 1/2

 

となります。

 

k = 3 のときは、x → 0+ のとき、

 

(1 - cos x) / (x^3) = (((x^2) / 2) - O(x^4)) / (x^3)

 

= 1/(2x) - O(x^4)/ (x^3) → +∞

 

となります。

 

k>3 のときも、x → 0+ のとき、

 

(1 - cos x) / (x^k) = (((x^2) / 2) - O(x^4)) / (x^k)

 

≧ (1/ (2x^{k-2}))・(1 - 2M x^2) → +∞

 

となります。

 

よって、

 

lim_{x→0+} (1- cos x)/(x^2) = 1/2,

 

lim_{x→0+} (1- cos x)/(x^k) = +∞ if  k≧3

 

となります。

 

よって、k≧3 のとき、

 

S(n^k, n) = +∞

 

となります。

 

以上が、明白に間違っている部分です。

 

 

 

 

 

次に、ここは証明を簡略化できる、という部分を指摘しておきます。

 

pp. 36-38 まで、35 行にわたって、以下の等式が証明されています:

 

lim_{ε→ 0+} ∫_{C_2} f・(2/ε) ds = 4πf(0, 0)       (#2)

 

この式の証明のために、講義ノートでは、

 

f のテイラー展開を二次の項まで考えていますが、

 

それは必要ありません。

 

以下にそれを示します。

 

まず、

 

∫_{C_2} f・(2/ε) ds = 2∫_[0, 2π] f(εcosθ, εsinθ) dθ    (#3)

 

の部分は、p.36 の証明と同じです。

 

それ以降は簡単で、f の点 (0, 0) での連続性から、

 

任意のδ>0 に対し、εを十分小さく取れば、

 

√(x^2 + y^2) ≦ εなる任意の (x, y)∈ R^2 に対し、

 

| f(x, y) - f(0, 0) | < δ

 

となります。

 

よって、x = εcos θ, y = εsin θ

 

とすれば、任意の θ∈[0, 2π] に対し、

 

| f(εcos θ, εsin θ) - f(0, 0) | < δ

 

となります。

 

よって、

 

|∫_[0, 2π] f(εcosθ, εsinθ) dθ- 2πf(0, 0) |

 

≦ ∫_[0, 2π] | f(εcosθ, εsinθ) - f(0, 0) | dθ

 

≦ ∫_[0, 2π] δdθ = 2πδ

 

となり、ε→ 0+ とすれば、δ>0 の任意性より、

 

lim_{ε→ 0+}∫_[0, 2π] f(εcosθ, εsinθ) dθ= 2πf(0, 0)          (#4)

 

が成り立ちます。

 

よって、

 

(#3), (#4) を合わせて、(#2) が成り立ちます。

 

 

 

 

以上の証明にはεδ論法を使いますが、

 

この講義ノートのレベルから言って、それは問題ないはずです。

 

 

 

 

今回は、以上です。

 

次回の記事では、この講義ノートで論じられていた曲面の面積について、

 

深刻な問題を提起します。

 

その問題は、この講義ノートを執筆した教授だけの責任ではなく、

 

この講義ノートの参考文献として挙がっていた

 

「ベクトル解析入門」一松信著

 

に、もともとの責任があります。

 

 

 

 

 

文責: Dr. Kazuyoshi Katogi