今回は、茨城大学理学部 ベクトル解析 2008 講義ノート詳細版
とタイトルをつけましたが、この講義ノートの内容についての論説ではありません。
この講義ノートの参考文献として挙がっている、
[1] 「ベクトル解析入門」一松信著
についての話題です。
この文献 [1] では、グリーンの定理に対して、
新しい証明を与えています。
その定式化は、以下の通りです。
定理 1: D = [a, b] × [c, d] を、R^2 における長方形とする。
E を R^2 における D の境界で、反時計回りの向きを与えておく。
f, g を R^2 における D の開近傍 U から R への全微分可能写像で、
D_2 f, (resp. D_1g )を 第1変数についての f の 偏微分
(resp. 第2変数についての g の偏微分) とするとき、
D_1g (x, y) - D_2 f (x, y)
は (x, y) について U 上連続とする。
このとき、グリーンの公式
∫_E ( f (x, y) dx + g(x, y) dy ) = ∫_D (D_1g (x, y) - D_2 f (x, y)) dxdy
が成り立つ。
特に、この定理の特別な場合として、次の定理が導かれます:
f(z) = u(x, y) + iv(x, y) (z = x + iy) を、C の開集合 U から C への
実 2変数関数として全微分可能な関数とし、
コーシーリーマンの方程式
D_1 u = D_2 v, D_2 u = - D_1 v
を満たすとすると、 f は U 上正則である。
この定理は古くから知られており、例えば、
その証明があります。
複素変数複素数値関数の正則性を証明するのに、
D_1 u, D_2 u, D_1 v, D_2 v
の連続性は必要なく、u, v の全微分可能性と、
コーシーリーマンの関係式だけで充分である。
このことは、この文献 [1] で述べられており、
また、グルサによっても注意されていることです。
ただ、この文献 [1] で、先の part 2 でも述べたように、
「微分積分学の理論体系そのものも、いろいろな意味で、
伝統的な標準コースそのものを見直す必要がある
時期に達したと感じる。」
とは、言い過ぎではないかと思います。
グリーンの定理については、P.J. Choen
(一般連続体仮説の相対独立性証明をした人か?)
によって、次の一般化がなされています。
上記定理 1 で、
f, g の全微分可能性の条件を、
f, g がどちらも第一変数、第二変数に関して U 上偏微分可能で、
D_1g (x, y) - D_2 f (x, y)
が x, y について D 上ルベーグ可積分関数と仮定するだけで、
グリーンの公式
∫_E ( f (x, y) dx + g(x, y) dy ) = ∫_D (D_1g (x, y) - D_2 f (x, y)) dxdy
が成り立つ。
(On Green's theorem / P.J. Choen 1959)
正則関数の判定条件としても、
グルサの注意には続きがあって、以下が成り立ちます。
Looman-Menchoff の定理
f(z) = u(x, y) + iv(x, y) (z = x + iy) を、C の開集合 U から C への
連続関数とし、偏微分
D_1 u, D_2 u, D_1 v, D_2 v
が U 上いたるところ存在し、
コーシーリーマンの方程式
D_1 u = D_2 v, D_2 u = - D_1 v
を満たすとすると、 f は U 上正則である。
(証明は、例えば complex analysis in one variable
/ R. Narasimhan, Y Nievergelt 著 にある。)
グリーンの定理については、以下の定式化もあります。
D = [a, b] × [c, d] を、R^2 における長方形とする。
E を R^2 における D の境界で、反時計回りの向きを与えておく。
f, g を R^2 における D の開近傍 U から R への連続写像で、
D_2 f, (resp. D_1g ) が U 上いたるところ存在して
それらは U 上局所有界とし、、
D_1g (x, y) - D_2 f (x, y)
は (x, y) について U 上連続とする。
このとき、グリーンの公式
∫_E ( f (x, y) dx + g(x, y) dy ) = ∫_D (D_1g (x, y) - D_2 f (x, y)) dxdy
が成り立つ。
(証明は、例えば、この pdf にある。)
このように、文献 [1] で述べられていることは、
グリーンの公式や正則関数についての、ほんのわずかなことにすぎません。
それらを以て、微分積分学の標準コースを
いたずらにいじくりまわすのは、感心しませんね。
文責: Dr. Kazuyoshi Katogi