今回は、リフト定理と複素対数について、論じます。
記号についての約束は、
C を複素数体、C-{0} を C から 0 を取り除いた位相空間、
Z を整数全体、R を実数体とします。
ホモトピー論の基本で、次のリフト定理があります:
リフト定理
p: E → B を被覆空間, e_0 ∈ E, b_0 = p(e_0)∈B をそれぞれ
E, B の基点, X を弧状連結かつ局所弧状連結な位相空間,
f : X → B を連続写像, x_0∈X, f(x_0) = b_0 とする.
このとき, 連続写像 g : X → E が一意に存在して、g(x_0) = e_0,
かつ p○g = f なるための必要十分条件は,
f_* : π_1 (X, x_0) → π_1 (B, b_0) の像が
p_* : π_1 (E, e_0) → π_1 (B, b_0) の像に含まれることである。
ここに、 p○g は写像の合成, f_*, p_* はそれぞれ、
写像 f , p から誘導される、基本群の準同型である。
この定理は well-known なので、証明は省きます。
さて、このリフト定理の応用として、次の定理が証明されます:
(X, x_0) は基点付き位相空間で、X は局所弧状連結、かつ、
(X, x_0) は連結かつ単連結とする。
今, z_0 ∈ C, w_0 = exp(z_0),
f : (X, x_0) → (C-{0}, w_0) を連続写像とすると、
連続写像 g : (X, x_0) → (C, z_0) が一意に存在し、
f(x) = exp (g(x))
となる。
証明: p : C → C-{0}, (p(z) = exp (z), ∀z∈C)
が被覆空間になることを示せばよい。
任意の y∈ C-{0} に対し、θ≠ arg (y) なる θを取り、
U = { w ∈ C-{0} | arg(w) ≠ θ},
F(n, θ) = { z∈C | Im (z)∈ ] θ+2nπ, θ+ 2(n+1)π[ } (n∈Z)
とおくと、U は C-{0} における y の開近傍で、
p^{-1} (U) = ∪_{n∈Z} F(n, θ) (disjoint union)
となり、各 n∈Z に対して、p の制限
p_n : F(n, θ) → U
よって、p は被覆空間である。
証明終わり。
系 上記定理で、さらに、X が 実C^r 級多様体 (1≦r≦ω)
f が実 C^r 級写像 (resp: 複素解析写像) のとき、
となる。
このことは、p : C → C-{0} が、複素解析多様体の間の
局所同型であることからもわかる。
また、この時、点 x∈X における g の接線型写像 T_x(g)
は、次のように計算される:
f(x) = exp (g(x)) = h○g(x) (h(y) = exp (y), h○g は写像の合成.)
より、chain rule より、
T_x (f) = T_{g(x)} (h) ・T_x(g)
で、T_{g(x)} (h) は exp(y) の y = g(x) における微分係数だから、
T_{g(x)} (h) = exp(g(x)) = f(x).
よって、
T_x (f) = f (x)・T_x (g).
よって、
T_x (g) = (f (x))^{-1}・T_x (f) : T_x (X) → C.
この g が、Log f と記述されるものであり、
よく、Log f(x) = (Log f)(x) (x∈X)
と書かれる。
つまり、f(x) = exp (Log f(x))
と書けるので、この記法は、自然と、
複素対数関数の一般化になっている。
又、系で示した Log f (x) の微分係数についても、
( Log f (x) ) ' = f ' (x) / f(x)
という、良く知られた公式の自然な一般化になっている。
余談だが、この Log f の構成は、確率論において、
無限分解可能な分布について定式化する際に用いられる。
たとえば、西尾真喜子「確率論」実況出版, pp155-156, 命題 1
にその記述があり、X = R の場合に初等的な証明が載っている。
文責: Dr. Kazuyoshi Katogi