今回の数学エッセーでは,
に引き続き, 有名な次の定理を証明したいと思います:
標準的に同型と言う概念の定義については,
上記の過去記事を参考にされてください.
K を可換体, A を有限次元 K 線型空間と K 線型射像からなる圏,
A* を A の双対圏とする.
すなわち, A* の対象全体は A の対象全体であるので,
A の射 f: X → Y に対し, f を A* における
Y から X への射とみなすものとする.
今, G を A から A への恒等関手,
F を A から A* への関手で,
A の任意の対象 X に対し,
F(X) = X* (X の双対),
A の任意の射 f : X → Y に対し,
F (f) : Y* → X* を,
F (f) (u) = u \circ f
for u ∈ Y*
とする.
A* から A への, 射の矢印を逆にする関手を J とする.
このとき, 次の定理が成り立つ:
定理:
A から A への関手として, G と J \circ F は
自然同値でない.
つまり, 有限次元 K 線型空間 E に対しては,
E と E* は標準的には同型でない.
証明
帰謬法で示す.
G から J \circ F への自然同値 T が存在すると仮定する.
すなわち, A の任意の対象 X, Y と
A の任意の射 f : X → Y に対し,
次の図式は可換となる:
T_X
X → X*
f ↓ ↑ F(f)
Y → Y*
T_Y
ここに, T_X, T_Y は K 線型空間の同型である.
ここで, n = dim (X) > dim (Y) = m かつ,
f が epimorphism になるように f : X → Y を選べば,
F(f) : Y* → X* は monomorphism であるので,
n = rank (T_X) = rank ( F(f) \circ T_Y \circ f )
= rank ( T_Y \circ f )
= rank (f)
= m
となり, 矛盾する.
ここに, A の任意の射 g : U → V に対し, rank(g) とは,
V の部分 K 線型空間 Im(g) の K 上の次元のことである.
証明終わり.
文責: Dr. Kazuyoshi Katogi