今回の数学エッセーのテーマは, 選択公理と可測集合です.
と言っても, 基礎論を勉強されている方にとっては,
よく知られている結果ですが.
以下のような疑問を呈する方がいました:
『R の Lebesgue 非可測部分集合の構成には, 選択公理が必要ですか?』
答え: 必要です.
何故ならば, 選択公理とは両立しない, 決定性公理 (AD) というのがあります.
AD からは, 選択公理 (AC) の否定 not AC が導かれ,
ZF + AD からは, R のすべての部分集合が Lebesgue 可測であることが
導かれます.
さらに, R から構成可能な集合の全体 L(R) は,
ZF + AD のモデルとなっていることが示されます.
従って, ZF が無矛盾であれば, ZF + AD は無矛盾です.
従って, もし, ZF から R の Lebesgue 非可測集合の存在が導かれるならば,
ZF + AD のもとで, R のすべての部分集合は Lebesgue 可測であり,
なおかつ, R のある部分集合が Lebesgue 非可測となってしまい,
ZF + AD が無矛盾であることに反します.
文責: Dr. Kazuyoshi Katogi