今回の数学エッセーでは, 3元数体の非存在の証明を行います.
次の定理が成り立つ:
定理: D = R^3 には, 次のような体構造は入らない: D は R の拡大体で,
なおかつ, その体構造は, D のR^3 としての R 線型空間構造と両立する R 線型環
の構造を定める.
証明: 仮に, D にそのような体構造が入るとして, a ∈ D - R とする.
E = R(a) とすると, D が R 線型環であるという前提から, E は R の真の拡大体で,
dim_R (D) = (dim_E (D))・dim_R (E)
なることから, dim_R(E) = 3, 即ち, E = D となる.
よって, D は可換, かつ R の有限次代数拡大体である.
よって, シュタイニッツの定理より, 中への R 同型
f: D → C
が存在するが, これは矛盾.
上記の定理で, エッセンシャルなのは, R の任意の元と可換な D-R の元 a
が存在するという点です. もし, 上記定理で,
『D の体構造が R^3 の R 線型空間構造と両立する R 上の線型環の構造を定める.』
という条件を緩め, 単に,
『 D の体構造は R^3 の R 線型空間構造と両立する』
という条件にするならば,
そのような体構造が D に入るかどうかは, 私の中では未解決です.
しかし, 誰かが既に解決しているかもしれませんね.
なお, D に R^3 の直積位相を入れて,
R の拡大体としての積演算 D × D → D が連続ならば,
D の任意の元 a は R の任意の元と可換です.
実際,
a・1 = 1・a
より, 任意の整数 n に対して
a・n = n・a
n が non zero の場合は左右から 1/n をかけて
(1/n)・a = a・(1/n)
よって, 任意の有理数 r に対して
r・a = a・r
連続性より, 任意の実数 x に対して
x・a = a・x
となります.
文責: Dr. 加藤木 一好