今回の数学エッセーでは, クリフォード群についての, ブルバキ『数学原論』の記述の間違いを紹介します.
ブルバキ『数学原論』代数 vol.7, p.129, 補題 5 で, G^+ は G の指数 2 の部分群であるという記述がありますが, この主張は, E が 奇数次元の場合は, 反例があります.
実際, E が奇数 2m+1 だと, C(Q) の中心 Z は, 1 と C(Q) の 2m+1 次のある元 u によって生成される, A 上 2次元の線型環です. u については, 以下の二つの場合があります (ブルバキ『数学原論』代数 vol.7, pp.127-128, 定理 3 の証明より.):
u^2 = a ∈ A で, a が A の平方元でない場合. この時, Z は A の分離拡大体で, 任意の b, c ∈ A ( (b, c) ≠ 0) に対し, x = b + cu は Z 内で可逆で, G に入り, x^{-1} = (b - cu)(b^2 - c^2a) となります. (ブルバキ『数学原論』vol.7, p.129, 定理 4, a) )
そこで, x = 1 + u, y = (1+u)^{-1} と置くと, x, y は G - G^+ (補集合) に入り, y^{-1}x = (1+u)^2 = 1 + a + 2u は G^+ には入りません.
(E が奇数次元だから, A の標数は ≠ 2 です.) よって, G^+ の G における指数は > 2 です.
u^2 = a^2 , a ∈ A - {0} の場合. A の標数が 3 でないとします. この時,
x = 2a + u は Z で可逆で G に入り, x^{-1} = (2a - u)/(3a^2) となります. (ブルバキ『数学原論』vol.7, p.129, 定理 4, a)) そして, x, u ∈ G - G^+ で, x^{-1}u = (-a^2 + 2au)/(3a^2) は G^+ には入りません. よって, G^+ の G における指数は > 2 です.
つまり, A の標数が 3 でない場合はいずれの場合でも, G^+ の G における指数は > 2 です.
以上です.
文責: Dr. 加藤木 一好