ある掲示板で, ルベーグ・スティルチェス積分がどういう場合に使われるのか,
そのモチベーションを教えてほしいとの質問を見かけました.
今回の数学エッセーでは, ルベーグ・スティルチェス積分の重要な応用として, どういうものがあるのかを紹介します.
答えの一つは, 確率論です. (Ω, B, P) を確率空間で, X → R を確率変数とする.
この時, 単調増加右連続関数 F:R → [0, 1] を, F(x) = P({ω∈Ω | X(ω) ≦ x})
で定義すると, F は X の分布関数となり, R 上の正値 Radon 測度 μ がただ一つ存在し,
任意の a, b ∈ R に対して
P({ω∈Ω | a < X(ω) ≦ b}) = μ(]a, b]) = F(b) - F(a)
となる.
さて, a, b ∈ R を F の連続点で, a < b なるものとする.
g : [a, b] → R を μ ほとんど至る所連続な関数で, μ可積分とすると,
μ に関する g の積分 ∫ g(x) dμ = ∫ g(x) dF(x) は,
max_{i=1}^n |x_i - x_{i-1}| → 0 の時のリーマン和:
Σ_{i=1}^n g(z_i)(F(x_i) - F(x_{i-1}))
の極限となる. ここに,
a = x_0 < x_1 < ・・・< x_n = b,
x_{i-1} ≦ z_i ≦ x_i.
古典的には, このリーマン和の極限が, 今で言うルベーグ・スティルチェス積分と呼ばれるものであった.
特に, この近似が有効なのは, g が連続関数の場合と, g が有界変動で F が連続な場合である.
この性質を縦横無尽に使い, 無限分解可能な確率分布の基本を精密に論じ,中心極限定理とリンデベルグ条件の同値性に証明を与えた文献が, 清水良一『中心極限定理』(教育出版)です.
文責: Dr. 加藤木 一好