今回の数学エッセーは, 複素関数論における, 線積分の初歩的な話題です.
U を C の開集合, f:U → C を連続関数, g:[a, b] → U を区分的に C^1 級の路とするとき,
f の g に沿った線積分は,
∫_g f(z) dz = ∫_a^b f(g(t))g'(t)dt
で与えられるのであった.
ここで, h:[c, d] → [a, b] が C^1 級微分同型の時,
∫_g f(z)dz = ∫_{g ◯ h} f(z) dz
となる. ここに, g ◯ h は合成写像.
さて, ここで問題が発生する. g_1 : [a_1, b_1] → U, g_2 : [a_2, b_2] → U
を二つの区分的に C^1 級の路で, Im(g_1) = Im(g_2) とする時,
∫_{g_1} f(z)dz = ∫_{g_2} f(z)dz
が成り立つか?
答えは否定的で, U = C-{0}, f(z) = (2πiz)^{-1} for z ∈ U,
a_1 = a_2 = 0, b_1 = b_2 = 1,
g_1(t) = e^{2πit}, g_2(t) = e^{4πit},
とすると,
∫_{g_1} f(z)dz = 1,
∫_{g_2} f(z)dz = 2
となります.
そこで, f の g に沿った線積分を考える際には, 区分的に C^1 級の路 g : [a, b] → U の像だけではなく, g 全体の振る舞いが問題になってくるのです.
文責: Dr. 加藤木 一好