kazz の数学旅行記

数学の話題を中心に, 日々の知的活動の旅路を紹介します.

数学文献ノート / ZFC 集合論入門

このノートでは、集合論 ZFC をこれから勉強する人のために、

Book レビューを兼ねて、いくつか文献を紹介したいと思います。

もちろん、これがベストというわけではありません。

最終的には、各自、自分に合った本を選べば良いと思います。 

本の順序は、私が読んで行った順番です。

 

 

 

 

 

 

 

1)ブルバキ数学原論集合論 (邦訳) vol.1 vol.2 vol.3

 

これは、原著がフランス語で、当時新進気鋭の数学者たちが書いた本です。

フランス語版は Springer から出版されています。

 

アマゾンで購入するなら、こちら:

 

ブルバキ集合論 原著

 

英訳も出ているはずです。和訳は残念ながら、絶版です。

和訳のほうは、大学の図書館か、書庫でご覧ください。

 

vol.1 では、その前半部分 (第1章) で、公理的集合論を学習するための

予備知識としての一階等号述語論理を過不足なくレクチャーしています。

vol.1 の後半 (第2章) では、学部初年次レベルの素朴集合論を公理的に書き直し、

本格的な「公理的集合論」を展開しています。

 

 vol.2 (第3章) では、順序関係、全順序、整列集合、集合の濃度などが

詳しく扱われます。J. v. Neumann が定式化した順序数の概念は、

このシリーズでは扱われません。その代わり、「順序型」と言う概念が、

演習問題になっています。本文のほうでは、自然数の概念が定義され、

数学的帰納法超限帰納法などが語られます。そのほか vol.2 では、

射影極限や帰納極限の概念が扱われます。

 

vol.3 (第4章) では、構造の一般論を扱います。現代では、圏論が整備され、

この巻は不要と感じる方が多いと思いますが、普遍写像問題の解が

存在するための十分条件など、working mathematician にとって、

強力な道具立てがあり、私も再三に渡って、この巻にお世話になりました。

 

なお、このブルバキ集合論では、ヒルベルトが発見した

超限論的選択関数が一階等号述語論理に組み込まれており、

そのおかげで、選択公理や整列定理、Zorn補題が定理

として証明されています。

 

最後に、このブルバキ集合論に正則性公理を追加した形式的体系は、

集合論 ZFC の保存拡大になっていると言うことを述べておきます。

 

関連ノート:集合論 ZFC 入門 〜論理体系の種類〜

 

2)福山克 「数理論理学」(培風館

 

集合論の文献のはずなのに、なんで論理学?

と思われるかもしれません。

 

しかし、公理的集合論を学ぶためには、その記述言語たる

一階等号述語論理について、理解を深める必要があります。

 

ブルバキ集合論の論理体形系には、超限論的選択関数が組み込まれていました。

しかし、通常、論理学や ZFC では、超限論的選択関数は使いません。

この本では、超限論的選択関数のない、一階等号述語論理を

展開しています。 

 

ZFC を学ぶのが目的の方は、第0章、第1章、第2章と付録の A.1 

をお読みになれば十分です。(他の部分は、ゲーデル不完全性定理の話題です。)

特に、付録の A.1 は、定義による関数記号の導入が、論理体系を保存拡大すると

言う超数学的定理が述べられています。 

この部分は、超限論的選択関数とかかわりのある部分です。

 

「Hilbert のイプシロン定理」と呼ばれる定理があります。

または、前原の第二ε定理と呼ばれています。

 

それは、超限論的選択関数を組み込んだ一階等号述語論理は、

超限論的選択関数のない一階等号述語論理の

保存拡大になっていると言う定理です。

(超限的な証明は、完全性定理を使うと簡単です。)

 

この定理に、前原昭二先生が、有限の立場で証明を与えた論文を書いています:

 

S. Maehara: Equality axiom on Hilbert's ε-symbol.

Journal of the Faculty of Science, University of Tokyo, 第 I 類, 第 7巻, 第 4号

(1957)

 

 

 

以下の本にも記述がありますし、前原先生の論文も引用文献に上がっています。

 

前原昭二著 数理論理学 -数学的理論の論理的構造- (培風館)

 

 

訂正:以前に紹介した以下の本は、書店で確認したところ、別の本でした。

 

前原昭二「数理論理学序説」

 

訂正しておきます。

 

 

 

 

ちょっと話がそれましたが、ブルバキの一階等号述語論理を読み、

この福山先生の本を読んで比較されると、ちょっと雰囲気が違うことが感じられます。

詳しくは述べませんが、福山先生の本のほうの一階等号述語論理を

ちょっと定式化しなおしたくなる欲求に駆られると思います。

(特に、理論の定数と変数の違いや、公理シェーマについて。)

 

 

3)田中尚夫「公理的集合論」(培風館

 

この本では、スタンダードな ZFC 集合論を展開しています。

ブルバキ集合論、福山先生の「数理論理学」をお読みになった後で、

この本を読み進められると、ZFC についての認識が深まるでしょう。

 

すでに、この本には、私はアマゾンでレビューを書いています。

以下に引用します

 

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この本では、集合論 ZFC を公理的に記述している。

一階の等号述語論理を習得した読者であれば、読める内容になっている。

特徴的なトピックスとして、以下が挙げられる:

①順序数や基数の基礎理論

 普通の本に比べ、カントールの標準形や、

 ZF での基数の扱いも詳しく述べられている。

②論理式のレヴィ階層

 モデルの拡大に関する、論理式の絶対性についての記述が詳しい。

③構成的集合

 一般連続体仮説選択公理の無矛盾性が証明されている。

④(非分岐)強制法

 構成可能性公理・選択公理の独立性が証明されている。

特に、「公理 SM の回避」について、説明が詳しい。

 

ちなみに、この「公理 SM の回避」の部分の議論は、

超冪を使った超準解析の定式化でも、威力を発揮する。

 

なお、選択公理の独立性証明では、

通常用いられる対称モデルの方法ではなく、

反復強制法(反復 generic 拡大)が用いられている。

 

そのほかにも、遺伝的順序数定義可能集合のクラス HOD

にも言及があり、選択公理の独立性証明に応用される。

 

公理的集合論の入門書として、大変豊かな内容である。

現在は、品切れらしく、手に入らないのが、残念である。 

 

******************************* 

 

以上が、アマゾンのBook レビューです。

 

4)倉田令二郎「公理論的集合論」(河合文化教育出版)

 

この本は、BG 式の集合論を紹介しています。

強制法についても、薄い冊子ながら詳しく、

一般連続体仮説の独立性や

選択公理についての独立性を

丁寧に解説しています。

 

入門編としては、ちょっと上級者向けかもしれません。

BG 集合論に慣れるための本としては、良いと思います。

 

余談ですが、、BG 集合論は、圏論の定式化のためには不可欠です。

 

ZFC では足りないんですね。

この辺について、ZFC にある程度慣れている読者にとって、

BG より強いクラス理論ですが、雰囲気をつかめる文献として

岩波基礎数学選書「集合と位相」終章 pp.291-296

が手っ取り早いでしょう。 

 

ここまで 4冊の本を紹介しましたが、

入門編としては、これで十分であるように思われます。

 

余談ですが、2)福山先生の本、3)田中先生の本だけでも、

数学ユーザーの立場での集合論の学習には、論理的には十分です。

 

しかし、ブルバキ集合論を読むと、

本当に、論理と集合への理解が深まります。

ちょっと遠回りに感じられるかもしれませんが、

興味のある方は、お試しください。

 

追記

 

公理的集合論に本格的に入りたい方は、

 

5) T. Jech「Set Theory」Springer

 

をお勧めします。BG を含めて、クラシカルなことは大抵載っています。 

(僕はまだ読んだことはないですが、定評がある教科書です)

 

又、記号論理学の分析手段としての超数学は、よく「有限の立場」といわれます。 

この辺について、入門レベルの考え方、技術を身につけたい方は

 

6) 竹内外史・八杉満里子「証明論入門」 (共立出版

 

をお勧めします。 ゲンツェンによる LK, LJ とカット消去定理、

そして、帰納法を含む自然数論の無矛盾性証明が紹介されています。

もちろん、有限の立場を深く追求していくと、形式的体系の無矛盾性を

証明するために必要な「順序数の大きさ」が問題となってきます。

帰納法を含む自然数論の場合は、それがちょうど最小の ε-順序数と

なるわけです。 

 

以上です。

 

 

 

文責: Dr. Kazuyoshi Katogi (加藤木 一好)