kazz の数学旅行記

数学の話題を中心に, 日々の知的活動の旅路を紹介します.

BGE が ZFC の保存拡大であることの有限の立場での証明 (atom からなる集合を持つと仮定して良い.)

この pdf(公理的集合論入門) で, atom からなる集合を持つ BGE が atom からなる集合を持つ ZFC の保存拡大であることの有限の立場での証明を与えています.

 

ただし, この pdf の中では, atom を個体と呼んでいます.

 

ここ 1ヶ月くらい, この保存拡大の超数学的定理の執筆を行なっていました. 僕がこの証明を与えたのは, もう 15年くらい前ですが, 当時は大学院での僕の専門とは外れる分野で, 趣味としてやっていた勉強でした. 従って, LaTeX での清書を行っていなかったのです.

 

しかし, 最近, この保存拡大の超数学的定理に関する文献が通常の方法ではなかなか手に入らないことを知り, この結果に興味を持たれるであろう数学愛好者のために, この pdf を執筆したものです.

 

証明には, モデル理論の方法, 強制法 (ジェネリック拡大), シークエント計算や証明図の分析を使います.

 

 

2023/10/8 追記: 最後から 2 ページ目のところのミスプリを修正しました. が, 保存拡大の本論には影響しない部分です.

 

2023/10/11 追記. モストウスキーの同型 \varphi : M_0 \to M_1 について, 誤植を訂正しました.

x ∈ M_0 かつ cl x の時, \varphi (x) = { \varphi (y) | y ∈ x} ではなく,  \varphi (x) = { \varphi (y) | y ∈ x \cap M_0} となります.

 

2023/10/17 追記: 形式的体系についての準備のセクションの一番最初で, A が記号列で x が対象変数, X が類変数で, x, X が A に現れない時, (∃x)A と (∃X)A が図形として区別できなくなっていた問題を解消しました. (∀x)A, (∀X)A についても同様です.

 

文責: Dr. Kazuyoshi Katogi

今日までの数学 2023/09/10

今日の時点では,

 

[ブルバキ位相線型空間] 第2章, §5 まで終了. 第 1 巻の p.79 の命題 6 の証明は,

H が E から R へのアフィン写像のグラフであることの証明が, 修正が必要となります.

 

[岩波位相幾何学 I] 実シューベルト多様体による実グラスマン多様体の CW 分割.

この部分の定式化には修正が必要でした.

自然数のパラドックス.

今回の数学エッセーでは, 前回の正則性公理のパラドックスに引き続き, 自然数パラドックスを紹介します. 形式的体系として, ZFC を考えます.

 

ZFC の言語を L とし, L に現れない定記号 b を L に追加した言語を L_b とします. そこで, ZFC の公理シェーマを全て言語 L_b に関して考えることにより, ZFC を拡張した形式的体系を T_b とします. T_b に於ける具体的自然数の超数学的定義は, 前回と同様です.

 

N を ZFC に於ける有限順序数 (自然数) の全体とします.

 

x を ZFC の自由変数, 又は b とする時, 

B(x) を論理式 x ∈ N とします.

 

次の公理シェーマ S_b を考えます: n が具体的自然数の時, 論理式 n ∈ b は公理である. 

 

さて, ここで, 次の定理が成り立ちます:

 

定理: T_b に明示的公理 B(b) と公理シェーマ S_b を追加した形式的体系 T_b^* は, ZFC の保存拡大である.

 

証明: A を T_b^* から証明可能な ZFC の論理式とすると, T_b の公理 C_1(b), ・・・, C_m(b) と具体的自然数 n と LK の証明図 P を有限時間内に構成し, P の end sequent が, 次の形になるようにできる:

 

C_1(b), ・・・, C_m(b), B(b), φ∈b ∧・・・∧ n∈b → A

 

ここで, ZFC の自由変数 v で, P に現れないものを取り, P にあらわれる b を全て v で置き換えたものを P' とすると, P' は LK の証明図で, その end sequent は 

 

C_1(v), ・・・, C_m(v), B(v), φ∈v ∧・・・∧ n∈v → A

 

の形である. よって, sequent

 

(∀v)C_1(v), ・・・, (∀v)C_m(v), B(v), φ∈v ∧・・・∧ n∈v → A

 

は LK-provable. よって, sequent

 

(∀v)C_1(v), ・・・, (∀v)C_m(v), (∃v)(B(v)∧φ∈v ∧・・・∧ n∈v) → A

 

は LK-provable. 然るに, 論理式 (∃v)(B(v)∧φ∈v ∧・・・∧ n∈v) は ZFC から証明可能だから,

ZFC の有限個の公理 D_1, ・・・, D_p が存在して, sequent

 

D_1, ・・・, D_p → (∃v)(B(v)∧φ∈v ∧・・・∧ n∈v)

 

は LK-provable となる. よって, cut より,

 

(∀v)C_1(v), ・・・, (∀v)C_m(v), D_1, ・・・, D_p → A

 

は LK-provable である. そこで, (∀v)C_1(v), ・・・, (∀v)C_m(v) がそれぞれ ZFC の定理であることに注意すると, A が ZFC から証明可能であることがわかる.

Q.E.D.

 

 

文責: Dr. Kazuyoshi Katogi

正則性公理にまつわるある種のパラドックス.

今回の数学エッセーでは, 正則性公理にまつわる, ある種のパラドックスを紹介します.

 

T を形式的体系 ZF もしくは ZFC とします.T の無矛盾性は仮定します. T の言語を L とし, L に現れない定記号 f (0 変数関数記号) を L に付け足した言語を L_1 とします.

 

T の公理シェーマを全て言語 L_1 の下で考えることによって得られる形式的体系を T_f とします. さらに, 超数学的立場で, 次の定義をおきます:

 

[1] 図形 φ は具体的自然数である.

[2] 図形 x が具体的自然数ならば, 図形 x ∪ {x} は具体的自然数である.

[3] 上記 [1], [2] によって定義したもののみが, 具体的自然数である.

 

具体的自然数 x に対し, x ∪ {x} を S(x) と置きます.

 

具体的自然数は全て, T の term であるとみなせます.

 

さて, 次の論理式 A を考えます:

 

A : f は N から N への双射である.

 

ここで, T_f に於いて, 有限順序数の全体を N と同一視します.

 

また, 次の公理シェーマ S_f を考えます: n が具体的自然数の時, 論理式

f(S(n)) ∈ f(n) は公理である.

 

そこで, 今回の発見は, T_f に明示的公理 A と公理シェーマ S_f を付け足した形式的体系 T_f^* が T の保存拡大であり, なおかつ ω矛盾するということです. T にはすでに正則性公理が入っていることに注意します.

 

証明は, この pdf の 2.1 に掲載しました.

 

他にも、自然数にまつわるパラドックスを追加しました。

 

 

文責: Dr. Kazuyoshi Katogi