数学エッセー
今回は, ブルバキ『数学原論 積分 3』p.50, 定義 3 の直前の段落について, 反例を与える. 問題になるのは, K, L が 局所コンパクトハウスドルフ空間 T のコンパクト部分集合で, R_K, R_L が共に分離同値関係になる場合であっても, R_{K∪L} が必ずしも分離に…
ブルバキ数学原論, 位相線型空間 vol.2, p.32, 命題4 で, 『u は M × F で連続であり』 と言う記述があります。 E, F, G は位相線型空間で, u : E × F → G は双線型写像なのですが, 実はこの記述の意味は 『任意の点 z ∈ M × F に対して u : E × F → G は点 …
今回の数学エッセーでは, 前回の正則性公理のパラドックスに引き続き, 自然数のパラドックスを紹介します. 形式的体系として, ZFC を考えます. ZFC の言語を L とし, L に現れない定記号 b を L に追加した言語を L_b とします. そこで, ZFC の公理シェーマ…
今回の数学エッセーでは, 正則性公理にまつわる, ある種のパラドックスを紹介します. T を形式的体系 ZF もしくは ZFC とします.T の無矛盾性は仮定します. T の言語を L とし, L に現れない定記号 f (0 変数関数記号) を L に付け足した言語を L_1 とします…
さて, 今回は, 岩波書店『位相幾何学 I』p.25, 例題 2.9 に述べられていた演習問題について少し解説します. 定理の statement は以下の通りです: (i) C^n から R^{2n} への実線型空間としての同型 f : (z_1,・・・,z_n) \mapsto (x_1,・・・,x_n, y_1,・・・…
今回の数学エッセーでは, 位相空間 X の二つの稠密開集合 U, V の共通部分 W が, 再び稠密なることを証明します. LaTeX version はこちら. (定理 2.1.1.) A ⊆ X に対し, A の X における閉包を [A] と表すと, ブルバキ 数学原論 位相 vol.1, p.12, 命題 5 よ…
Q を有理数体, Z を整数環とし, Q, Z の加法として, それぞれ, 有理数体から導入された加法, 整数環から導入された加法を考える. 商加法群 Q/Z の有限部分群を決定しよう. 次の定理が成り立つ: 定理: n を 1 以上の整数, A/Z を Q/Z の位数 n の部分群とする…
今, 岩波の位相幾何学 I を部分的に復習していますが, p.8 の例題 1.8 が自明ではありません. 同相 : X_1* ・・・*X_n → (X_1*・・・*X_i)*(X_{i+1}*・・・*X_n) が存在するとありますが, 証明を与えてみると, k-space の圏でしかうまくいきません. …
今回は, 微分可能関数の理論で, スカラー体が Q_p (p 進体) の時, p 進整数環 Z_p から Z_p への C^1 級写像 f で, 至る所 Df (x) = 0 で, なおかつ原点では真に微分可能ではないものを構成しました. この構成は, 何年も前ですが, ある巨大掲示板で, 代数的…
今回は, 最近ネットで見つけた, 微分積分学の第二基本定理を証明します. 定理: [a, b] を R の有界閉区間, f : [a, b] → R をリーマン可積分な有界関数, F : [a, b] → R を連続関数で, 任意の x ∈ ]a, b[ に於いて F は微分可能で, DF(x) = f(x) が成り立っ…
本日付の朝日新聞の天声人語に, 採用面接の際にイーロン・マスク氏が好んで用いる質問というものが紹介されていました. 『あなたは地球上のある地点にいます. そこから, 南へ 1マイル, 西へ 1マイル, 北へ 1マイル進むと, ちょうど元の地点に戻ってきました.…
ブルバキ数学原論 積分 vol.4, p.3, 補題 1 は, f が [-∞, +∞] に値を取る場合, b) の積分が意味を持たなくなる場合があります. X = {0}, Y = Z = [0, 1] ∪ [2, 3] とし, Y, Z には R からの導入位相を与えます. f : Z → [-∞, +∞] を f(t) = -∞, f(s) = + ∞ …
ブルバキ積分 vol.3, 一番最後の定理 4 ですが, 二つ, 疑問があります. 一つ目は, その証明で, N_0 と N_0' が同時に空であるか, 又は同時に空でないかという条件が必要かと思います. あと, b) で, r : B → R が局所 ν 可積分となっていますが, この証明が難…
ここ一週間くらい, ブルバキ積分 vol.3 で, ベクトル値測度の理論で, スカラー体が R と C の場合の比較をしていました. T を局所コンパクトハウスドルフ空間, F をハウスドルフ複素局所凸空間, K_C(T) を T 上のコンパクト台の複素数値連続関数の全体に, ブ…
以前, こちらの記事で話題にした件ですが, やはり反例がありました. ブルバキ数学原論 積分 vol.3, p.34, 系 4 の statement で, F を可算型ノルム空間, m を F の強双対 F'_β の中に値を取る T 上の測度とし, F'_β の標準ノルムに関して上有界とする時, m …
ブルバキ数学原論 積分 vol.3, p.34 の系 4 に, 次の記述があります: 『F は可算型ノルム空間, F' を F の強双対, m を F' に値を取るベクトル値測度で, F' のノルム q に関して上有界とする時, m は (F' に値を取る測度として) 基底 q(m) の測度である.』 …
本記事では, 物理や工学で有名な, デルタ関数が存在しないことを証明します. デルタ関数 δ の一番緩い定義は以下の通りです: R 上のルベーグ測度 μ に関して無視可能な集合 N が存在し, δ : R - N → R ∪ {-∞, +∞} かつδ は 測度 μ に関して局所可積分であり,…
ブルバキ数学原論 積分 vol.3, 付録, 補題 1 の証明で, U が F' で強閉であるという仮定を課していますが, この仮定は除去しなくてはなりません. そして, 実際に除去できます. 実際, F' に於ける W の強閉包 W' が U に含まれるという部分の証明では, U が F…
今回の数学エッセーでは、代数的位相幾何学(代数トポロジー)と、代数幾何学の違いを、専門外の一般人向けに、なるべく、分かりやすく説明することにチャレンジしてみます。 代数的位相幾何学も、代数幾何学も、図形について研究します。 円と三角形を例に…
随分昔から、円周率が割り切れた、というフェイクニュースが出回っています。もちろん、きちんとした教育を受け、それが身についている人は、そんなフェイクニュースを信用していません。しかし、世の中には、かなりの数、その種のフェイクニュースを信じて…
今回の数学エッセーでは, 次の問題を考えます. (未解決です.) M を実解析多様体 (有限次元ハウスドルフで位相が可算基底を持つものとする.), N を M の実解析的閉超曲面 (超曲面とは, codimension 1 の部分多様体のこと.) で, M - N = U ∪ V (U, V は M の開…
僕は学部生の頃, 以下の問題を解きました: M を実解析多様体 (特に断らない限り, 有限次元でハウスドルフ, かつ位相が可算基底を持つものとする.), N_p ⊆ N_{p-1} ⊆ ・・・⊆ N_1 を N_0=M の部分集合の減少列で, N_{i+1} は N_i の C^{s_{i+1}} 級部分多様体…
位相空間論 (General Toplogy) は、論理との結びつきが明快で、すごく理路整然とした定式化で、わかりやすいですが、直観的にイメージしづらい部分もあります。 その点を助けるため、僕が 20歳前半の頃に読んだ本を紹介します。 M. デイヴィス 『超準解析』…
今回は、複素解析関数の中でも、entire function と呼ばれるものについて, 初歩的なことを論じます. まず, よく知られていることですが, f : C^n → C が entire function のとき、任意の x ∈ C^n に対し, 必ず, limsup_{n → ∞} || D^n f (x) / n! ||^{1/n} =…
今回は, 東京図書からでているブルバキの数学原論, 積分 vol.1 (初版は 1968年) の翻訳ミスを紹介します. p.229 の系で,『 正値測度 λ で, (中略) かつ x を重心とするものが少なくとも一つ存在する.』 とありますが, これは, 多くとも一つ, の間違いです. …
大学院の博士課程に在学中の 2年目のこと。指導教授とは別の先生から、 『もう先生から問題もらった?』 と聞かれたことがあります。なんだそれはと思いつつ、 『いいえ』 と答えたことを覚えています。 当時の私には、先生から問題をもらうと言うのがどう言…
一般逆関数定理の定式化, 完了しました. 微分多様体の基礎 6 〜バナッハ多様体の基礎 II〜 上の pdf にあります. pdf で,『一般逆関数定理』で検索すれば出てきます. 定式化は, 以下の通りです: i = 1 or 2, 1 ≦ r ≦ ω とする. X, Y を C^r_i 級多様体で, X …
今回の数学エッセーでは, 数学の中では, 幾分通俗的な記事を書いてみます. テーマは, 『背理法は必要か?』 ここで言う背理法とは, 論理式 A に対し, not A を仮定して矛盾が出たら, A が証明可能であると主張する原理です. 結論を言うと, 数理論理学に, 以下…
Yahoo 知恵袋で, 次の質問を見かけました: 位相空間 X の基本群 π_1 (X) は常に可換になりますか? 答え: いいえ. 実際, 次の定理が決定的です: 定理 G_i (i∈N) を群の列で, i > 1 に対しては G_i は可換なるものとする. この時, 連結 CW complex X で, 任意…
今回の数学エッセーは, 複素関数論における, 線積分の初歩的な話題です. U を C の開集合, f:U → C を連続関数, g:[a, b] → U を区分的に C^1 級の路とするとき, f の g に沿った線積分は, ∫_g f(z) dz = ∫_a^b f(g(t))g'(t)dt で与えられるのであった. ここ…