本記事では, 物理や工学で有名な, デルタ関数が存在しないことを証明します.
デルタ関数 δ の一番緩い定義は以下の通りです:
R 上のルベーグ測度 μ に関して無視可能な集合 N が存在し,
δ : R - N → R ∪ {-∞, +∞} かつδ は 測度 μ に関して局所可積分であり,
(例えば δ(x) = 0 for x ≠ 0)
かつ, R 上のコンパクト台の連続関数の全体 K の任意の元 f に対し,
∫f(x)δ(x)dμ(x) = f(0)
と言う性質を満たす, と言う『定義』です.
ここに, R - N は R に於ける N の補集合とします.
さて, このような δ が存在するとすると,
δ と R 上のルベーグ測度 μ との積 δ・μ は定義され,
δ・μ はR 上の原始測度 ε で, 任意の f∈ K に対し,
<f, ε> = f(0)
なるものに等しくなります.
つまり,
δ・μ = ε
です.
しかし, δ・μ は測度 μ に関して絶対連続で,
ε は測度 μ に関して絶対連続ではありません.
これは矛盾です. (文献: Bourbaki 数学原論 積分 vol.2. 東京図書.)
この矛盾は, デルタ関数 δが存在すると言う仮定から導かれました.
従って, 帰謬法より, デルタ関数は, 存在しません.
文責: Dr. Kazuyoshi Katogi