kazz の数学旅行記

数学の話題を中心に, 日々の知的活動の旅路を紹介します.

ベクトル値測度の絶対最小上界.

ここ一週間くらい, ブルバキ積分 vol.3 で, ベクトル値測度の理論で, スカラー体が R と C の場合の比較をしていました.

 

T を局所コンパクトハウスドルフ空間, F をハウスドルフ複素局所凸空間, K_C(T) を T 上のコンパクト台の複素数値連続関数の全体に, ブルバキ積分の意味での位相を与えたもの, m : K_C(T) → F を F 値ベクトル値測度とします. (スカラー体は C で考える) この時, m の制限 m_0 : K_R(T) → F はスカラー体を R で考えた時の F 値ベクトル値測度になる. q を F 上の下半連続半ノルムとする.

 

ここで, F' を F の双対, F_0 を F を実位相線型空間とみなしたもの, F'_0 を F_0 の双対,

A = {z' ∈ F' : 任意の z ∈ F に対して |z'(z)| ≦ q(z)} 

B = {z' ∈ F'_0 : 任意の z ∈ F に対して |z'(z)| ≦ q(z)}

C = {|z' \circ m| : z' ∈ A}

D = {|z' \circ (m_0)| : z' ∈ B}

と置く. T 上の正値測度の全体 M_+ の中での C, D の上界の全体をそれぞれ C', D' と置く.

 

この時, C' = D' である. 更に, C' が空でない時, C' には最小元が存在し,

min C' = min D'

が成り立つ.

 

スカラー体が R か C かで, A, B, C, D は全く独立に定義されるのですが,

C', D' については同じで, C' が空でない時,

|m|_q = min C' = min D' 

と記述し, |m|_q を m の絶対最小上界と呼ぶことにしています.

(絶対最小上界というのは, L. Schwartz『解析学』の用語です.)

 

C' = D' は自明な等式ではなく, それなりに証明が必要です.

 

|m|_q の特徴付けとしては, 正値測度 λ で, T 上で定義された任意のコンパクト台の正値連続関数 f に対し, 不等式:

q(m(f)) ≦ λ (f)

が成り立つようなもの全体を E とすると, E = C' = D' となるため, E が空でない時, E の最小元が |m|_q となります.

 

 

文責: Dr. 加藤木 一好