大学院の博士課程に在学中の 2年目のこと。指導教授とは別の先生から、
『もう先生から問題もらった?』
と聞かれたことがあります。なんだそれはと思いつつ、
『いいえ』
と答えたことを覚えています。
当時の私には、先生から問題をもらうと言うのがどう言うことかわかりませんでした。週に一度のゼミでは、指導教授と会って、
先生『進展があったか?』
kazz『いいえ』
先生『手頃な問題があるといいんだけどね』
kazz『そうですね』
なんて言うやりとりをしていました。
先生から問題をもらうと言うのは、
『この問題を解いたら学位をやる』
と言う意味での問題をもらうと言うことでしょうか。
私の指導教授はそう言う意味での問題は、私に与えてくれませんでした。あくまで、未解決問題は自分で探せ、と言うスタンスでした。
とはいえ、研究の方向性がまるで決まっていなかったわけではなく、ブラジルのゴンサルベスという数学者の書いた論文を読みながら、ゴンサルベスの書いた論文では解決できていなかった部分をいかに解決するか、という方向で研究をしていました。
博士課程院生の頃、指導教授から明白に教わったことといえば、ゴンサルベスの書いた論文の Theorem 3 の証明が間違っているということの証明でした。証明が間違っていることは、D3 の4月の頃からわかっていたのですが、問題は、Theorem 3 の結論が間違っているかどうかということでした。指導教授からは、
『いっそのこと、Theorem 3 が間違っていることを証明できないか?』
とアドバイスを受け、苦心惨憺の末、私はゴンサルベスの論文の Theorem 3 の結論が間違っていることを証明し、無事に博士論文を書いて、学位をもらいました。『先生からもらった問題』とは、こういうものを言うのでしょうかね。
その時の博士論文がこちらです。(大学側に提出したものに、加筆修正をしています。)ゴンサルベスのどの論文の Theorem 3 に間違いがあるのかもわかります。(博士論文の Theorem 1 と Theorem 2の方は、実際にジャーナルに掲載された定理で、こちらの方は簡単な結果です。D2 の終わりまでには証明が完了していました。博士論文の Theorem 3 の証明は、D3 の 9月ごろまでかかりました。そのせいで、ジャーナルへの投稿が間に合いませんでした。)
文責: Dr. 加藤木 一好