kazz の数学旅行記

数学の話題を中心に, 日々の知的活動の旅路を紹介します.

ブルバキ多様体の複素関数の理論の間違いの指摘

今回の数学エッセーでは, ブルバキ多様体の記述の間違いの一つを紹介します.

 

目立つ間違いを具体的に指摘すると, vol.1 の p.23, 3.3.1 で, 関数 f:U → F が整型であることと微分可能であることとが同値であるという主張ですが, これには反例があります. (複素微分の範囲で考えています.)

 

f が整型という条件は, f が局所有界であるという条件を導きますが, f が単に微分可能なだけでは, f は局所有界になりません. 詳しいことは, 以下のプレプリントにあります:

 

weakdiff

 

上記のプレプリントでは, Theorem 5 で, 可分な複素ヒルベルト空間 E から複素フレシェ空間 F への無限回微分可能な関数 f で, E の任意の開集合 G に対し, f(G) が F で非有界になるものを構成しています.

 

さて, では, ブルバキ多様体の 3.3.1 をどう修正すれば正しくなるでしょうか?答えの一つは, f が微分可能かつ局所有界であることと f が整型であることとは, 同値になります. 二つ目の答えは, F がバナッハ空間の時は, f が整型であることと f が微分可能であることとは同値になります. F が単に準完備なだけではダメなのです.

 

余談ですが, U が無限次元複素ノルム空間 E の開集合で, F が点列完備な複素局所凸空間で, f : U → F が複素微分可能関数ならば, f は無限回微分可能になります. このことは, L. Schwartz 解析学 vol.6 の複素関数の理論で, 証明を与えると約束しておきながら, その約束を果たしていなかったものです. 証明はそんなに難しいものではなく, 先に紹介したプレプリントにもその証明を載せています.

 

 

文責: Dr. 加藤木 一好