今回は、複素解析関数の中でも、entire function と呼ばれるものについて,
初歩的なことを論じます.
まず, よく知られていることですが,
f : C^n → C が entire function のとき、任意の x ∈ C^n に対し, 必ず,
limsup_{n → ∞} || D^n f (x) / n! ||^{1/n} = 0
となります. 換言すれば, f の点 x における真収束半径は ∞ となります.
しかし, E = l^2(C) (可算型複素ヒルベルト空間) の時は事情が違っており,
entire function f : E → C で, 任意の x ∈ E に対して
limsup_{n → ∞} || D^n f (x) / n! ||^{1/n} = 1
かつ 任意の y ∈ E に対して C に値を取る級数
Σ_{n = 0}^∞ D^n f (x)(y-x)^n / n!
が絶対収束かつ E 上局所一様収束し, f(y) に等しくなるものが存在します.
つまり, f の真収束半径は, 至る所 1 となります.
実際, f(y) = Σ_{n = 0}^∞ (y, e_n)^n
と置けばいいです. ここに, (z, w) は E の標準内積で,
(e_n) は E の正規直交基底です.
ちなみに, 絶対収束の意味は, 正項級数:
Σ_{n = 0}^∞ | D^n f (x)(y-x)^n / n! |
が収束するということです.
ここから, E からある複素フレシェ空間 F の中への複素 C^∞ 級関数 g で,
E の任意の開集合 U に対して g(U) が F で非有界なるものの存在が導かれます.
これは, F を C^N (N は自然数の全体) に直積位相を与えたフレシェ空間とし,
g(x) = (f(nx))_{n ∈ N} for x ∈ E
と置くことによって, 直ちに得られます.
もちろん, このことからも, F にはノルムがつかないことがわかります.
詳細は, こちらのプレプリントに書いてあります.
文責: Dr. Kazuyoshi Katogi