今回の数学エッセーでは, 正則性公理にまつわる, ある種のパラドックスを紹介します.
T を形式的体系 ZF もしくは ZFC とします.T の無矛盾性は仮定します. T の言語を L とし, L に現れない定記号 f (0 変数関数記号) を L に付け足した言語を L_1 とします.
T の公理シェーマを全て言語 L_1 の下で考えることによって得られる形式的体系を T_f とします. さらに, 超数学的立場で, 次の定義をおきます:
[1] 図形 φ は具体的自然数である.
[2] 図形 x が具体的自然数ならば, 図形 x ∪ {x} は具体的自然数である.
[3] 上記 [1], [2] によって定義したもののみが, 具体的自然数である.
具体的自然数 x に対し, x ∪ {x} を S(x) と置きます.
具体的自然数は全て, T の term であるとみなせます.
さて, 次の論理式 A を考えます:
A : f は N から N への双射である.
ここで, T_f に於いて, 有限順序数の全体を N と同一視します.
また, 次の公理シェーマ S_f を考えます: n が具体的自然数の時, 論理式
f(S(n)) ∈ f(n) は公理である.
そこで, 今回の発見は, T_f に明示的公理 A と公理シェーマ S_f を付け足した形式的体系 T_f^* が T の保存拡大であり, なおかつ ω矛盾するということです. T にはすでに正則性公理が入っていることに注意します.
証明は, この pdf の 2.1 に掲載しました.
文責: Dr. Kazuyoshi Katogi