kazz の数学旅行記

数学の話題を中心に, 日々の知的活動の旅路を紹介します.

南へ 1マイル, 西へ 1マイル, 北へ 1マイル行くと元の地点に戻る時 〜3種類の答え〜

本日付の朝日新聞天声人語に, 採用面接の際にイーロン・マスク氏が好んで用いる質問というものが紹介されていました.

 

『あなたは地球上のある地点にいます. そこから, 南へ 1マイル, 西へ 1マイル, 北へ 1マイル進むと, ちょうど元の地点に戻ってきました. さて, あなたはどこにいるか?』

 

天声人語に紹介されている答えは『北極点』でしたが, 実は, 数学的には, この問題の答えは他に 2種類あります.

 

以下, 数学的議論を簡単にするため, 地球は完全な球体で, 南北への移動は経線に沿って, 東西の移動は緯線に沿って行い, 地球表面の相異なる 2点間の距離は, 地球表面においてそれらを結ぶ曲線の最短のものの長さと定義します.

 

では, 答えに参りましょう.

 

[1] n を 1以上の自然数とし, S(n) を南半球面における, 1周の長さが 1/n マイルの緯線上の点全体からなる集合とします. y を S(n) の任意の点とする時, G(y) を y から北へ 1マイル移動した地点とします. この G(y) が全て答えになります. (n は 1以上の自然数の全体を, y は S(n) を動きます.)

 

[2] 南極点からの距離が 1マイル以下の位置にある地球表面の地点の全体を H とすると, H の任意の点 x が答えになります.

 

[1] は図を描いて考えれば明らかですが, [2] がなぜ答えになっているのかを理解するためには, 数理論理学の知識が必要です. 実際, x を地球表面上の点とする時, 命題 A(x) を『x から出発して南へ 1マイル, 次に西へ 1マイル, 次に北へ 1マイル移動した.』 という命題とし, 命題 B(x) を『ちょうど地点 x に到達した.』という命題とすると, 問題で尋ねられていることは, 地球表面上の点 x で, 命題 『 A(x) ならば B(x)』 が真となるものを求めなさい, ということです.

 

ここで, x が H の点ならば, 命題 A(x) は偽ですから, 命題 B(x) の真偽の如何によらず, 命題『 A(x) ならば B(x)』は真となります. よって, H の任意の点 x は求める答えになります.

 

 

文責: Dr. 加藤木 一好 (Kazuyoshi Katogi)