kazz の数学旅行記

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フレシェ微分の基礎理論の pdf の紹介

この知恵ノートでは、ブルバキ数学原論 多様体 要約

Chapter 1, 2 の補足ノートの紹介をします.

(PDF) 微分多様体の基礎 1 〜フレシェ微分の基礎〜

 

 

大まかな構成として, 微分可能関数の議論を, 係数体 K が離散でない付値体の場合に一般化します. つまり, K が p 進体 のみならず,

有理数体 Q の場合とかにも定式化されています. 尚, ブルバキ の原著では, K が R でも C でもない場合は, 可換で完備な超距離体と仮定されています.

 

ただし, 最も重要な場合といえばやはり, K が R 又は C の場合でしょう. この点は微分積分学の成立した経緯もあり, その重要性は, 揺るぎないです.

 

さて, 以下, 微分多様体の基礎 1 の紹介です.

 

第1, 2 章. ここは, 用語とか定式化のための準備です. 大した難しさはないですが, 本書で使う用語や記号のルールが書いてあります.

余談ですが, ブルバキの原著で, 係数体が可換としていた理由も記載しております. これはシンプルで, 高階微分を自明のものとしないためです. 

 

第3章. 形式冪級数に関する議論です. この章で論じたことは, 後ほど執筆する予定の, 解析関数の理論の基礎となります. 本書での理論構成上は, 第4章以降には, 形式冪級数は出てきません.

 

この章では, 一点だけ自明でない定理があって, α が |α| = m なる multi-index を動く時の P_α(E_1, … , E_n; F) の直和位相線型空間 G_m が, P_m (E; F) に同型なることの証明が詳しく述べられています. このおかげで, 解析関数の定義域の方のノルム空間を E 一つだけにするのか, E_1, … , E_n からなる『多変数』とするのか, という問題に, 神経質にならずに済みます.

 

特に, 係数体 K が 超距離体の時は, G_m は P_m (E; F) と, 分離多ノルム空間として同型となります. 

 

そのほかは, 形式冪級数への代入操作の一様連続性の議論などです.

尚, ブルバキの原著では, 形式冪級数の理論は, 補遺に回されております.

 

第4章. この章では, 接触次数の定式化が行われます. 接触次数とは, 2つの関数の芽が『どれだけ近いか』を表す指標の一つです. 

 

尚, 接触次数は, ブルバキの原著では自然数ですが, ささやかな精密化として, 実数値を取るものとしても, 定式化できます. 

 

第5章. この章では, 微分可能関数の定式化が行われます. 他の本では C^1 級という性質が扱われますが, ブルバキ独自の定式化として,『真に微分可能』というものがあります. 

 

いずれの場合でも, 微分可能関数は, 一般に, ノルム空間の開集合 U で定義され, 分離多ノルム空間に値を取る, フレッシェ微分として定式化されます.

 

第6章. この章では, 微分可能関数, 及び真に微分可能関数の合成や直積などの基本演算について述べられます. 

 

特に重要なのは, 後ほど頻繁に出てくる, 微分可能関数 (resp: 真に微分可能関数) f : U → F と連続線型写像 u : F → G との合成の微分係数についてです. ここで, U は K ノルム空間 E の開集合, F, G は分離多ノルム空間です.

 

『線型』という概念は, 微分の基本的なツールで, 理論の基礎づけのために, 大きな役割を果たします.

 

第7章. この章では, 偏微分を取り扱います. 偏微分と言っても, その本質はやはり, 部分ノルム空間に制限した場合のフレッシェ微分です. ただし, 偏微分では, 部分ノルム空間を平行移動し, 部分アフィン空間としなくてはなりません. ここでは, 部分アフィン空間上の関数の微分多様体本論に委ね, ノルム空間の開集合で定義された関数の微分の範囲で, 偏微分を定式化しております.

 

この問題の解決のためには, フレッシェ微分をはじめから, ノルムアフィン空間の開集合上で定義された関数について定式化する必要があり, 実際に, L. Schwartz 解析学では, その方法での定式化を成功させています.

 

第8章. この章では, 微分可能関数の積の微分を一般化し, f_1, …, f_n をそれぞれノルム空間 E の開集合 U から分離多ノルム空間 F_i への微分可能関数, u を F_1 ×・・・× F_n から 分離多ノルム空間 G への連続 n 複線型写像とする時, 合成 u(f_1, …, f_n) の微分可能性と, その微分係数について論じます. 特に, F_i がノルム空間の場合, u の微分可能性と, その微分係数にまつわる評価が, のちに重要になってきます.

 

第9章. この章のメインは, 開写像定理の真微分可能関数バージョンの定式化です. L. Schwartz 解析学微分法の章では, f をバナッハ空間 E の開集合 U からバナッハ空間 F への C^1 級写像で, Df(x) が U 上至る所全射になる場合, f が開写像である, という趣旨の断り書きがあります. しかし, その証明は難しいため, 載っていません.

 

この章では, バナッハ空間 E の開集合 U からバナッハ空間 F への写像 f がある点 a ∈ U において真に微分可能, かつ Df(a) が全射な場合に, a のある開近傍 V への f の制限が開写像であることを証明します. この定理そのものは, N. Bourbaki の多様体要約にも結果だけが掲載されておりますが, 証明は難しいです.

 

そのほかにも, 一点で真に微分可能な関数が局所的に単射になる場合や, 局所位相同型になる場合の初等的なケースが扱われます. Bourbaki の多様体要約では, 陰関数定理の初歩としての取り扱いです. 陰関数定理については, 本 pdf でも, 後ほど, 詳しく取り扱います.

 

第10章. この章では, 高階微分可能関数や C^r 級関数などの定式化を, 係数体が離散でない可換付値体の場合に行います. と同時に, 高階微分可能性の判定を, 関数がノルム空間に値を取る場合に, ある程度帰着させられる定理を証明します. この定理は後ほど, 合成関数の高階微分可能性を論ずる際に, 役立ちます.

 

第11章. この章では, 係数体が R 又は C の場合に, フィルターによる関数族の極限と微分操作の交換可能性について, 論じます. 極限の存在を保証するため, 値の空間 F の完備性についての仮定が問題になりますが, 単に完備とするのではなく, 問題のフィルターに応じて, 完備性の仮定の度合いを調節しております. フィルター G を固定したときに, G 完備という概念がそうです. その最も典型的なケースが, 関数列の極限を扱う場合で, この場合は, F が点列完備であれば良いです.

 

L. Schwartz の解析学では, なぜか積分の章にこの定理が紹介されておりましたが, 本 pdf の証明の本質的な部分は, L. Schwartz によるものです. ただし, 本 pdf では, 一様空間論の知識を仮定するため, 証明がより効率的になっております.

 

第12章. この章では, K = R, C, 又は H の場合のフレッシェ微分の定義を, 接触次数の考え方を使わずに書き直します. また, それだけの章です.

 

第13章. この章では, 2つの微分可能写像と, 点列連続双線型写像との合成が, 微分可能であることを証明します. ブルバキの原著では, K = R の場合のみの定式化でしたが, 本 pdf では, K が離散でない可換付値体の場合にも定式化されます. 証明には, 可算選択公理が必要ですが, 断りなく使っています.

 

第14章. この章では, ベクトル値関数の平均値の定理についての定式化です. I = [a, b]を R の有界区間, F を分離局所凸空間, f:I → F を微分可能写像とするとき, f(b) - f(a) は, { Df(x)(b-a) | x \in I}

の F における閉凸包に入るというていりです. F が 1次元で f が C^1 級の場合が, 通常の平均値の定理です. この定理は, 有限増分の定理の精密化であり, 後の弱微分可能関数の理論で使われます.

 

第15章. この章では, K = R とし, ノルム空間 E の開集合 U, a ∈ U, 分離多ノルム空間 F, U - {a} から F への微分可能写像 f が与えられ, x → a の時, Df(x) がある極限 L ∈ L (E; F) に収束する時, f が U 上に微分可能性を保って延長され, Df(a) = L になるための条件について論じます. 

 

一つの十分条件として, F が点列完備, かつ E が R 上 2次元以上, というものがあります. これらの条件を, どちらか一方でも外すと, 反例があります.

 

第16章. この章では, 合成関数の高階微分可能性について論じます. 証明のための道筋として, この章では, 高階微分可能写像と連続複線型写像との合成の高階微分の理論が, 系統的に述べられます. 第10章で定式化された, 高階微分可能性の判定基準が, この章で生かされます. 

 

著しいのは, 合成関数の高階微分係数を, 元の関数の高階微分によって, 具体的な式で表しているところです. L. Schwartz 解析学微分法の章では, K = R or C の場合に, テイラーの公式の応用として, 合成関数の高階微分を, 元の関数で表す公式を作りました. が, 自然数の階乗が係数になっているため, そのままの形では, K が一般の離散でない可換付値体の場合には適用できません. 

 

公式の証明そのものは, 公式が具体的に与えられてしまえば, 帰納法による地道な証明なので, 演習問題に回しています. 

 

第17章. この章では, 亜連続な双線型写像と高階微分可能写像の合成の, 高階微分係数の存在を証明します. K = R or C の場合は, よく知られたライプニッツルールですが, K が一般の離散でない可換付値体の場合は, 自然数の階乗の問題から, 二項係数は使えません. そこで, 第16章と同じ考えでの定式化が必要となります. 

 

準備として, 分離多ノルム空間内の有界集合の理論が定式化され, その多くの性質が, ZF 内で証明されます.

 

第18章. この章では, 陰関数定理と逆関数定理を, 系統的に定式化しています. 1 ≦ r ≦ ∞ なる r について, C^r 級の方程式を満たす陰関数がどう言うときに存在するか? そして, どう言うときにその陰関数が C^r 級になるか? やはり, 係数体は離散でない可換付値体です.

 

特に, 技術的な理由で, ノルム環に値を取る関数 f について, x → f(x)^{-1} が C^r 級になることの証明を, 系統的に行なっております. この議論が, 陰関数や逆関数の C^r 級性の証明に, 大きく役立つのです.

 

第19章. この章では, K = R, or C の場合に, 高階階差の高階微分係数への収束とその速さを, 系統的に定式化します. 逆に, K が離散でない可換付値体の場合, 高階階差のある種の一様収束性から, 高階微分係数の存在を証明します. もちろん, 微分はフレッシェ微分の範囲で行います.

 

特に, 2階微分係数について, Young の定理や Schwartz の定理を, フレッシェ微分の範囲で定式化しなおします.

 

第20章. この章では, テイラーの定理とその逆についての定式化を, 系統的に行います. まずは, r 回実又は複素微分可能関数についてのテイラーの公式の定式化です. 次に, 漸近展開としてのテイラー係数の一意性の問題, 次に, 数値計算でよく使われる 2n+1 点公式の定式化. 最後に, 係数体が離散でない可換付値体の場合, テイラーの公式の元の関数へのある種の収束から, 元の関数が r 回微分可能であることを導きます (テイラーの定理の逆). 

 

第21章. この章では, 高階微分積分の順序交換の問題を系統的に論じます. L. Schwartz『解析学』の積分 vol. 4 に掲載されている内容を, 更に一般化します. 積分については, ラドン測度と一般の抽象測度の両方とを扱います. 更に, L^p 空間に値をとる関数の高階微分についても取り扱いがあります.

 

第22章. この章では, K = R 又は C の場合に, 弱 C^{r+1} 級関数が C^r 級であると言う定理を, 系統的に精密化し, 定式化します. ブルバキ多様体の実微分可能関数の章の一番最後の部分で, 難しいところです. 定式化の際には, ベクトル値関数の平均値の定理が使われます.

 

第23章. この章では, ユークリッド空間の開集合 U で定義され, U の閉部分集合内 A で m 階までの高階微分が 0 になる関数 f について, D^k f の評価を精密に行います. H. Whitney の昔の論文に, このような評価がたくさん出てきておりました. 

 

 

文責: Dr. Kazuyoshi Katogi (加藤木 一好)

整列可能定理・ツォルンの補題の証明に必要な公理

今日の数学エッセーでは、以下の文献の中から、

 

選択公理から整列可能定理とツォルンの補題を導く際、

 

ZF のどれだけの公理が必要かを紹介します。

 

公理的集合論入門

 

結論を言ってしまえば、等号述語論理の公理系に加え、

 

[1] 外延性の公理

[2] 対の公理

[3] 分出公理シェーマ

[4] 冪集合の公理

[5] 選択公理 (これはもちろん必要ですね)

 

です。合併の公理, 置換公理や無限公理、そして、正則性公理は必要ありません。

 

 

最近の基礎論の勉強では、逆数学の入り口みたいなことをやっていますが、

結構面白いものです。

 

 

文責: Dr. Kazuyoshi Katogi

わからないとは何か?

学校の勉強でも会社の仕事でも、

 

『わからない事はそのままにしないで、質問しなさい』

 

と言われます。

 

 

 

しかし、指導を受ける側の人間が失敗した時、

 

なぜ失敗したのかと聞くと、

 

『わからなかったから』

 

と言う答えが返ってくる場合があります。

 

 

 

そう言う時に、指導する側が

 

『わからないならば、なぜ質問しないんですか?』

 

と、相手を問い詰めても、はっきり言って、無駄です。

 

 

 

なぜかと言うと、指導を受ける側にとっての

 

『わからない』

 

とは、

 

『気づかない』

 

ことだからです。

 

 

 

つまり、気づかずに、そのままやり過ごしてしまうのです。

 

だからこそ、質問が出来ないのです。

 

 

指導する側は、この点を理解していないと、誰を指導しても、上手くいくことはないでしょう。

 

 

私は教育経験が長いので、この種のことは、よく知っています。

 

 

 

文責:Dr. Kazuyoshi Katogi

継続は力なり

僕は 20歳の頃から数学の勉強を始めて、

 

今年で 48歳。

 

実に、28年も、継続的に、数学を勉強しています。

 

もちろん、数学といっても、大学以上のレベルの数学です。

 

 

 

数学系の学部や院に合計 7年間在籍し、博士号を取得したのは、

 

ほんのささやかな通過点に過ぎません。

 

 

 

継続は力なり。

 

今後も、続けていきたいと思います。

定礎な関係のノイマン級数

今回の数学エッセーでは, 定礎な関係のノイマン級数は再び定礎であるという定理を, ZF 内で証明します. 

 

E を 集合, R を E 上の定礎な二項関係, S を R から定まるノイマン級数とする. つまり, S は E 上の 2項関係で, xSy は, E のある有限列 x_0, … , x_n が存在し, 0 ≦ i < n に対して x_i R x_{i+1} かつ

x_0 = x かつ x_n = y なることとする. ここに, (x, y) ∈ R , (x, y) ∈ S を, それぞれ xRy, xSy と記述した. 

 

定理: この時, S は定礎となる. 

 

証明. 仮に, S が定礎でないと仮定して, 矛盾を導く. E の空でないある部分集合 A が, 任意の x ∈ A に対して y ∈ A が存在して, ySx となっていると仮定する.

 

B = {x ∈ E | (∃a ∈ A)(aSx)}

 

と置く. 仮定より, A ⊆ B である.

 

そこで, E は R に関して定礎だから, B は R-極小元 a を持つ. B の定義より, b ∈ A が存在し, bSa となる.

 

Case 1. bRa ならば, b ∈ A ⊆ B だから, a が B の R-極小元であることに反する.

 

Case 2. E の元の有限列 x_1, ・・・, x_n (n>0) が存在して

 

bRx_1 かつ x_1Rx_2 かつ… かつ x_{n-1}Rx_n かつ x_n Ra

 

となる時. この時, bSx_n で, x_n R a だから, x_n ∈ B かつ x_n R a となり, a が B の R-極小元であることに反する.

 

証明終わり.

 

この定理の通常の証明は, E に Sに関する無限下降列が存在すると仮定して矛盾を導くというやり方です. その時に, 通常, 従属選択公理を使います. 今回は, 従属選択公理を避ける形で, 証明してみました.

 

 

 

文責: Dr. Kazuyoshi Katogi (加藤木 一好)

一番ダメな勉強法

この世で一番ダメな勉強法はと言うと、

 

暗記そのものが目的となっている勉強です。

 

 

学問の勉強は、その学問の仕組みを理解しなくてはなりません。

 

暗記しなくちゃ、と思っている人は、

 

『暗記』というものから、離れた方がいいですね。