某掲示板で、次のようなご意見を伺ったことがあります。
『数学の定理も、数字・番号で管理すれば、便利ではないですか?
例えば、「ピタゴラスの定理により」という文面は、
「定理 A-1786 により」とすれば、読む側にとって便利だと思うのですが。』
はっきり言って、これは、読む側にとっては便利でも、書く側にとっては不可能です。
これを実現するためには、数学の文章を書く人の全員が、定理の内容とコード番号を、
全て頭の中で一致させて暗記している必要があるからです。
これは、労力的には無駄であるばかりでなく、数学の世界に無用の混乱を発生させます。
数学ではなく、以下のような会話に置き換えればわかりやすいです。
店員: ごめんなさいね、のり塩味は売り切れなんですよ。
お客:じゃあ、湖池屋のガーリック味はありますか?
それと、湖池屋のエビカラムーチョも欲しいです。
店員:はい、ガーリック味とエビカラムーチョはございます。
お客:それと、トロピカーナのオレンジジュースもありますか?
店員:はい、ございます。
お客:じゃあ、それ全部ください。
店員:かしこまりました。湖池屋のガーリック味と海老カラムーチョをおひとつずつ、
トロピカーナのオレンジジュースをお一つでよろしいですね?
お客:はい。
店員:〇〇円になります、毎度ありがとうございます。
お菓子好きのお客さんと、店員さんの、よくある、ほのぼのとした光景です。
これをもし、お菓子の名前を全部バーコードで言うと、どうなるでしょうか?
お客:4-901330-512361 をください
店員: ごめんなさいね、4-901330-512361 は売り切れなんですよ。
お客:じゃあ、4-91335-115642 はありますか?
それと、4-91335-134308 も欲しいです。
店員:はい、4-91335-115642 と 4-91335-134308 はございます。
お客:それと、4-909411-057121 もありますか?
店員:はい、ございます。
お客:じゃあ、それ全部ください。
店員:かしこまりました。4-91335-115642 と 4-91335-134308 をお一つずつ、
4-909411-057121 をお一つでよろしいですか?
お客:はい。
店員:〇〇円になります、毎度ありがとうございます。
なんとも、怪しげな取引になってしまいました。
お客さん、店員さんの立場で、商品名を廃止して、全部バーコードで
対人コミュニケーションを行うことを考えれば、
これほどわかりにくいことはないと、お分かりになるでしょう。
数学者にとっての『数学の定理のコード番号』も、
『商品バーコード』と同じようなものです。
慣れ親しんだ数学の定理の名前を、番号なんぞにされてしまったら、
やりにくくてしょうがないんですよ。
文責: Dr. 加藤木 一好