kazz の数学旅行記

数学の話題を中心に, 日々の知的活動の旅路を紹介します.

大学数学を独学するための参考文献 part 2 〜ホモトピー論入門編〜

大学数学を独学するための参考文献 Part. 2 です。

 

予備知識としての Part. 1 はこちら:

 

大学数学を独学するための参考文献 Part 1 ~基礎知識編~

 

大学初年級レベルの数学の知識をベースにこれから独学される方は、

Part. 1 から始めてください。

 

Part. 2 では、代数的位相幾何学ホモトピー論の基礎を

学ぶときの文献を紹介します。

 

やはり、私の好みというか主観も入ります。

これがベストというわけではないので、

最終的には、各自自分にあった文献を読むのが良いでしょう。

 

まず、この知恵ノートよりもはるかに整った文献紹介サイトを挙げておきます:

 

Algebraic Topology 文献の探し方使い方

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2.1 単体ホモロジー、特異ホモロジーコホモロジー

 

この話題については、

 

J. R. Munkres 「Elements of Algebraic Topology」 (Westview Press)

 

を紹介しておきます。これ一冊で、かなりの範囲をフォローできます。

 

Book レビューはこちら:

 

アマゾンレビュー 1

 

補足ノートはこちら:

 

Elements of Algebraic Topology 補足ノート 

 

 

 

 

 

 

 

 

2.2 可微分多様体の単体分割 

 

これについては、

 

J.R. Munkres 「Elementary Differential Topology」

(Annals of Mathematics Studies)

 

が有名です。

 

Book レビューはこちら:

 

アマゾンレビュー 2

 

 

 

 

 

 

 

2.3 ホモトピー論入門

 

2.3.1 Cofibration について。まず必要と思われる文献です。

ネット上に落ちていますので、リンクを張っておきます

 

2.3.1.1 A. Strom 「Note on cofibration」

2.3.1.2 A. Strom 「Note on cofibration II」

 

 

2.3.2 主バンドルの分類定理について。

 

これは、私は必要と思って読みましたが、

必要ないと感じられる方は、読まなくても良いと思います。

ただ、非常に素晴らしい論文です。

自分が執筆するときのお手本として、

紹介しておきます。

 

これはやはり、ネット上に文献が落ちています。

 

A. Dold 「partitions of unity in the theory of fibrations」

 

 

 

 

 

 

 

 

2.4 ホモトピーの一般論 

 

2.4.1 まず、

 

岩波書店位相幾何学 I」(小松・中岡・菅原)

第1章、第2章と、第3章§2のファイバー空間の部分

 

は、読んでおいてください。

 

注意として、第2章の p.116 18-20行目の部分について、

これは Barratt のノートが巻末で引用文献に上がっていますが、

彼のノートは間違っています。すでに二人の研究者によって

間違いは訂正されたことになってはいますが、

その訂正も、実は間違っています。

これは自明でなくデリケートな部分なので、

下記のノートを参考にしてください:

 

訂正ノート 

 

又、p. 107 の例題 3.18 だけは、図式が可換にならない反例があります。

そのほか、あまり細かい具体例や演習問題は、最初のうちは読み飛ばしても

差し支えありません。後で必要になる都度、立ち戻れば良いと思います。

 

補足ノートはこちら:

 

位相幾何学 I 補足ノート 

 

2.4.2 Singer & Thorp 「トポロジー幾何学入門」

 

これは、第3章の基本群と被覆空間の部分だけを読めば十分です。

後で必要になります。

 

2.4.3 以上の準備の下で、ホモトピー一般については、

 

J. W. Whitehead 「Elements of Homotopy Theory」

(Springer, Graduate Texts in Mathematics vol. 61)

 

が、良いでしょう。

Book レビューはこちら:

 

アマゾンレビュー 3

 

この本では、全ての議論を k-space の圏で行っています。

k-space の基本性質は、第一章で述べられていますが、

証明はありません。この本を読む読者は、この程度の証明は、

自力で与えるだけの根気が必要です。

もっとも、Steenrod の論文には、証明がきちんと書いてあります。

 

N. Steenrod 「A convenient category of topological spaces」

Michigan math. j. Volume 14, Issue 2 (1967), 133-152. 

 

また、2.3.2 で紹介した Dold の論文をこの「Elements of Homotopy Theory」

のスタイルにしたがって、k-space の圏の場合に定式化しなおすのは、

良い演習問題です。私はこれを、修士課程のときに行いました。

ネックになるのは、universal bundle の存在証明のみです。

 

以下に修士論文として提出したものを紹介しておきます:

(2.3.2 の論文の焼き直しで、あまり自慢できる代物ではありませんが)

 

修士論文 

 

この論文に掲載されておらず、なおかつ 2.3.2 の Dold の論文に掲載されている

定理の k-space version に証明を与えるのは、routin で、そんなに難しくありません。

 

また、ブルバキ数学原論多様体・要約 vol.1 のファイバー・バンドルや

ベクトルバンドルの記述、さらに、2.4.1 で紹介した「岩波・位相幾何学 I」や、

2.4.2 で紹介した「トポロジー幾何学入門」の一部を k-space の圏の

場合に定式化しなおすのも良い演習問題です。

 

なお、ブルバキ多様体の補足ノートは、こちらにあります:

 

微分多様体の基礎1 

ブルバキ多様体§1-§9 

 

この辺のレベルの勉強は、本に書いてあることの何倍も

自分で勉強しなくてはなりません。

 

本の記述の不備なところも、他の文献を参照しながら自力で補う

必要があると思います。

 

ちなみに、Whitehead のこの本は、700ページくらいの本ですが、

私が自分で補足説明のためにノートを作ったら、

ノートのページ数が 800ページ強となってしまいました。

 

今、そのノートを読み直しています。

 

 

 

この項の最後に, 私の書いた博士論文を紹介しておきます.

Whitehead の Elements of Homotopy Theory を読まなくては,

おそらくはこの論文は書けなかったでしょう.

 

博士論文 

 

2.4.4 岩波基礎数学選書 「位相幾何学」 服部晶夫著 第1章~第6章

 

これは、2.4.3 の 「Elements of Homotopy Theory」を

読むときの副読本にすると良いです。

第2章の重心細分作用素と excision の関連の部分、

そして第6章の局所系について、参考になります。 

 

補足ノートは、こちら。 

 

以下の文献も、読んでおくと便利かもしれません:

 

2.4.5 On spaces having the homotopy type of a CW complex. / J. Milnor 

 

これは、ネットに落ちています

 

この文献オリジナルでは、Theorem 2 の証明に、2.6.2 の 定理3.1 を仮定しています。

でも、この定理3.1は、使わずにも済ますことができます:

以下の定理が証明できますので、興味のある人はチャレンジしてみると良いでしょう:

 

定理 2.4.5.1 (X, A_1, ... ,A_n) を位相空間の (n+1)-ad とするとき、

単体複体の (n+1)-ad (K, L_1, ... , L_n) と singular homotopy equivalence

f : (K, L_1, ... , L_n) → (X, A_1, ... ,A_n) が存在する。

(singular homotopy equivalence と言う用語は、文献 2.4.5 に載っています。)

 

定理 2.4.5.2 f : (X, A_1, ... ,A_n) → (Y, L_1, ... ,L_n) が singular homotopy

equivalence の時、任意の CW (n+1)-ad (K, L_1, ... , L_n) に対し、

f は homotopy set の全単射

f_* : [(K, L_1, ... , L_n); (X, A_1, ... ,A_n)] → [(K, L_1, ... , L_n); (Y, L_1, ... ,L_n)]

を誘導する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2.5 de Rham の定理について

 

diffrential topology の定理の一つです。 

微分形式を使ったコホモロジーで、強力な道具です。

 

この定理は、2.4.2 の本に、可微分多様体の単体分割定理

を仮定して証明が書いてありますが、不十分です。

特に、de Rham コホモロジーと 特異コホモロジーが、

algebra として同型であるという定理の証明に関して、

なかなか良い文献にめぐり合えないと思っている方は、

これ一冊をお読みください。層の理論を用いることによって、

単体分割を使わない証明が書いてあります。

 

F. W. Warner 著

Foundations of Differentiable Manifolds and Lie Groups 

(Springer, Graduate Texts in Mathematics vol. 94) 

Book レビューはこちら:

 

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また、この本は実リー群についても記述があります。

 

リー群については、

 

ブルバキ

数学原論: リー群とリー環

 

も良いと思います。

 

ブルバキリー群の Chapter 3 の一部しかないですが、

補足ノートを公開しておきます。

 

ブルバキリー群_補足ノート 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Part 2 の補足:ホモトピー論初心者が読んではならない本

 

Y. Felix, S. Halperin, J. C. Thomas 著

Rational Homotopy Theory

(Springer, Graduate Texts in Mathematics vol. 205)

 

なぜ読んではならないかと言うと、理論構成の基本が、論理的に破綻しているからです。

 

具体的には、pp.29-30 のあたりで、Moore の loop space:(ΩX と言う記号が使われる) の概念を扱っていますが、致命的な間違いがあります:

 

p.30 の 13行目から19行目までの記述で、任意の fibration sequence: F → X → Y (p:X → Y)に対し、標準的な写像 Ωp:ΩX → ΩY ( (Ωp) ( ω, l ) = ( p ¥circ ω, l ) ) が必ず fibration になるという部分がありますが、これは間違っています。

 

以下その証明:もし Ωp が fibration と仮定すると、まず注意として、その fibre は、ΩF ではなく、一点集合 {(e, 0)} である (ここに、e は X 内の定値 loop である)。なぜならば、一般に、ΩX の標準的な基点は (e, 0) の形で、写像 Ωp は、loop の長さを変えないからである。従って (e', 1) (e' は Y に値をとる定値 loop) 上の fibre:¥hat{Ω}(F) (F に値を取る、通常の loop space ) は、ΩF に homotopy 同値だから、特に Y が単連結のときは、(底空間 ΩY は弧状連結となるので)、ΩF は {(e, 0)} に homotopy 同値となり、したがって可縮である。しかし、自明な fibration sequence S^2 → S^2 × S^2 → S^2 (S^2 は2次元球面)に今の議論を適用すると、ΩS^2 が可縮となるが、π_1(ΩS^2) は 無限巡回群 Z に同型だから、矛盾である。(証明終わり)

 

(実は、もっとシビアな議論をすれば、自明な fibration sequence S^2 → S^2 × S^2 → S^2 に対応する Ωp が Serre fibration ですらないことがわかる。)

 

しかし、この Moore の loop space の概念は、この本の理論構成の一つとして導入されています。

 

以上のことから、この本をリファレンスとして活用するためには、あらかじめ、どこからどこまでが信頼でき、どこから先が論理的に破綻しているのかを、慎重に検証しておかなくてはなりません。そういう理由で、ホモトピー論の初心者にはお勧めできない本です。

 

 

 

 

 

 

 

2.6 s.s. 複体 (semi-simplicial complex) について。

 

2.6.1. 岩波「位相幾何学 I」の第 2章の記述。

 

この文献は、p. 107 の例題 3.18 以外は信頼できます。

2.4.1 で紹介した訂正ノート  もあわせてご覧ください。

 

2.6.2. 岩波「位相幾何学 I」の第 4章の記述について。

 

ここで、私が読んでいて、ギャップを感じた部分を紹介します。

岩波「位相幾何学 I」 の第4章、 pp. 251-254 の部分です。

この部分の記述の目的は、

 

定理 3.1

任意の位相空間 X について、X の特異 s.s. 複体 S(X) の実現 |S(X)| から

X への標準写像が弱ホモトピー同値になる。

 

という定理(Milnor による)に証明を与えることです。

ですが、p.253 の下から2行目の部分で、列

 

j_l < ・・・ < j_1

 

の一意性が一般には言えないので、p.254 の上から 6行目における写像

 

h_t (y) = | σ_ω, θ_{ω, t } (y) |

 

の定義が well-defined になるかどうかが、わかりません。

ここがどうしてもわからなかった私は、試行錯誤の末、

以下の文献にたどり着きました。

(Milnor の原論文の証明は、引用先の文献のほうが、

全くわかりませんでした。)

 

2.6.3 Simplicial Homotopy Theory / P. G. Goerss & J. F. Jardine 著

 

この本の結果を使うと、2.6.2 の定理 3.1 が証明できます。

 

ちなみに、この本はネット上に落ちています

 

こちらをクリックしてください。

 

きちんと製本されたものが欲しい方は、

アマゾンでペーパーバックで購入できます。

 

購入されたい方はこちら。

 

証明のアウトラインは、以下の通り:

 

X を弧状連結な任意の位相空間

 

       i        p

ΩX → PX → X

 

を path fibration sequenceとします。ここに、PX = {f: I → X | f(0) = *},

p(f) = f(1) (X の基点 * は適当に選んでおく。) PX は可縮となります。

従って, 

          S(i)          S(p)

S(ΩX)  →  S(PX)  →  S(X)

 

は、Kan fibration sequence となり、ある minimal fibration

 

    j      q 

F → E → S(X)

 

は、Kan fibration S(p) の fibrewise-deformation retract となります。

(この性質は, もちろん 2.6.3 にも書いてありますが、下に述べる

2.6.4 の文献にも書いてあります。)

 

したがって、実現 |S(PX)|, |E| は可縮で、次の同型の系列からなる

可換図式があります:

 

                         |S(p)|_*                                         Δ

π_{n+1} (|S(X)|)    ←    π_{n+1} (|S(PX)|, |S(ΩX)|)   →   π_n (|S(Ω(X))|)

    

           ↑                    ↑                       ↑

 

π_{n+1} (|S(X)|)       ←        π_{n+1} (|E|, |F|)        →       π_n (|F|)

                             |q|_*                                        Δ'

 

ここに、Δ, Δ' は境界作用素で、縦の同型は、inclusion が誘導し、

下の系列が(Serre fibration の long exact homotopy sequence により)

同型だから、上の系列も同型です。

 

ちなみに、

 

      |j|        |q|

|F|  →  |E|  →  |S(X)|

 

が Serre fibration sequence になることは、2.6.3 の本の

pp. 54-56 (pdf 版では、pp.58-61)に書いてあります。

(このことが、この証明で一番重要な点です。)

実際には少々強く、|q| は任意のコンパクト空間に対して CHP を持つことが

証明できます。

 

補足ノートは、こちら。 

 

よって、次の可換図式が得られます:

 

                        |S(p)|_*                                           Δ

π_{n+1} (|S(X)|)    ←    π_{n+1} (|S(PX)|, |S(ΩX)|)    →   π_n (|S(Ω(X))|)

 

           ↓ρ_2                             ↓ρ_1                              ↓ρ_0

 

   π_{n+1} (X)        ←        π_{n+1} (PX, ΩX)         →        π_n (ΩX) 

                            p_*                                          Δ''

 

ここに、Δ'' は境界作用素, ρ_0, ρ_1, ρ_2 は

問題の標準写像の誘導する準同型です。

また、再び Serre fibration の long exact homotopy sequence により、

p_*, Δ'' は同型です。

 

然るに、帰納法の仮定より, ρ_0 は同型だから、ρ_1, ρ_2 も同型です。

(X が弧状連結でない場合、標準写像 |S(X)| → X が path componet の間の

1-1 対応を誘導することは、明らかでしょう。)

 

小さな注意として、ΩX は p の fibre として見ているわけだから、

ΩX の基点は constant loop でなくても、何でも良いのです。

|F| の基点についても同様です。

 

以上です。

 

余談ですが、2.6.3 の文献は、かなり圏論に依拠した定式化をしています。

そのせいか、特に ss複体 K の実現 |K| の定義の仕方が、わかりづらいです。

それだけではなく、著者独自の記号を断りなしに使うので、

数式の意味の解読に時間がかかります。

特に、第1章の記述を初めて見たときには、面食らうと思います。

 

こういう不便については、適宜 2.6.1 および以下に述べる

2.6.4 の文献のほうが読みやすいので、これらを参考に補うと良いでしょう。

 

そのようにして一度 2.6.3 の第 1章だけでも乗り切れば、

それ以降の部分は慣れて勢いがついて、通読はできるかもしれません。

 

2.6.4 Simplicial Objects in Algebraic Topology / J. P. May 著

 

この本は、はじめ、2.6.2 の定理 3.1 の証明が

きちんと書いてあると見込んで購入したものです。

 

しかし、証明を補いながら読めたのは、p. 40 の 4 行目まででした。

それ以降は、推論の飛躍が結構多い上に、今は手に入らない

海外の研究者のガリ版印刷のノートからまでも引用があり、

とても読めたものではありません。

 

しかし、p.52 の 8行目までの記述は ( p. 40 の Remarks 9.12,

pp. 42-43 の Lemma 10.15, Proposition 10.16, Theorem 10.17,

Conventions 10.18 の二番目の文章, pp.47-50 の Theorem 12.4,

Theorem 12.5, Theorem 12.8, Theorem 12.9 を除いて)

信頼できる結果です。(むしろ読みやすいです。)

 

一度読んだあとは、むしろ積極的に

リファレンスとして活用できます。それ以降の部分については、

別の文献(例えば 2.6.3)と照合しないと、信頼性がわかりません。

 

また、任意の Kan fibraton は、ある minimal fibration を

fibrewise deformation retract の形で含み, 

任意の minimal fibration が Kan fibre bundle になることなどの証明は、

この本にもきちんと載っていて、わかりやすいです。

 

 

 

 

 

以上です。ホモトピー論の文献は多岐にわたり、

ここで書きつくせるものではありませんが、

ご参考にされてください。

 

 

 

 

文責: Dr. Kazuyoshi Katogi (加藤木 一好)

 

(Yahoo! ブログの廃止に伴い、こちら、はてなブログへと引っ越してきています。)