このノートでは、集合論 BGE を少々書き直し、
クラスだけでなく個体も扱える理論体系にすることを目的とします。
E.J. Lemmon の公理的集合論入門という本があります。
そのなかで、数学で扱う対象を次のように分類しています:
クラス・・・ものの集まり
個体・・・クラスでないもの (直観的には、ものの集まりとしては扱えないもの。)
集合・・・クラスであって、あるクラスに含まれるもの。
対象・・・個体または集合
記号のほうは、
x がクラスである ⇔ cl x (cl は class の略)
x が個体である ⇔ ind x ⇔ ¬cl x (ind は individual の略)
x が集合である ⇔ set x ⇔ cl x∧∃y(x∈y)
x が対象である ⇔ obj x ⇔ set x∨ind x (obj は object の略)
で、原子的な記号は cl, ∈ と、以下の外延性の公理を記述するための = がある:
∀x∀y( clx ∧ cl y ⇒ ( ∀z ( z∈x ⇔ z∈y ) ⇔ x=y ) )
ここで、僕は考えてみました。
cl, ∈, = を、唯一つの 2 変数述語記号で表現できないか?
結論を言います: c を 2 変数述語記号とします。
cxy を xcy と略記します。
ind x ⇔ xcx
cl x ⇔ ¬xcx
obj x ⇔ ∃y(xcy)
set x ⇔ cl x ∧ obj x
x∈y ⇔ xcy ∧ cl y
x=y ⇔ ( cl x ∧ cl y ∧ ∀z ( zcx ⇔ zcy ) ) ∨ ( xcx ∧ ycx )
で定義します。
これらの定義の下で、形式的体系は、普通の一階の等号述語論理を展開し、
BGE を形式化できます。
これらの定義と普通の一階述語論理の下で、
ind x ∨ set x ⇔ obj x,
cl x ⇒ ∀y ( ycx ⇔ y∈x ) ∧ ¬x∈x
ind x ⇒ ∀y ( ycx ⇔ x=y ) ∧ ∀y ( ¬y∈x )
clx ∧ cl y ⇒ ( ∀z ( z∈x ⇔ z∈y ) ⇔ x=y )
∀x ( x=x )
が成り立ちます。これで、2変数述語記号 c の意味がはっきりするでしょう。
そして、包含関係については、
x⊆y ⇔ cl x∧cl y∧∀z(z∈x ⇒ z∈y)
と定義すれば良いでしょう。
ちょっとそこで、BGE 集合論の公理系を展開してみます。
土台となる論理体系は、一階の等号述語論理です。
便宜上、∃x(x∈a∧B(x)), ∀x(x∈a ⇒ B(x)) をそれぞれ
∃x∈a(B(x)), ∀x∈a(B(x)) と略記します。
1) クラス構成公理シェーマ
A(x) を 論理式で、そこに現れる∀と∃記号については、すべて
∀y(obj y ⇒ B(y)), ∃y(obj y∧B(y)) の形をしているものとするとき、
∃y(cl y∧∀z(z∈y ⇔ obj z∧A(z)))
は、公理である。
この公理によって定まるクラス y を {x | A(x)} と書きます。
ちなみに、R={x | ¬x∈x} とおくと、R={x | x=x} で、なおかつ ¬obj R となります。
2) ∀x∀y(obj x∧obj y ⇒ set {z | z=x∨z=y })
obj x と obj y に対し、 {z | z=x∨z=y } を {x, y}, {{x},{x, y}} を (x, y)
と書きます。
3) ∃y(obj y∧∀x(¬xcy))
この y を φ (空集合) と書きます。特に、set φ となります。
4) ∀x(obj x ⇒ ∃y(set y∧∀z(z∈y ⇔ ∃w∈x(z∈w))))
合併公理です。
5) ∀x(set x ⇒ ∃y(set y∧∀z(z∈y ⇔ set z∧z⊆x )))
べき集合公理です。
6) ∃a(set a∧φ∈a∧∀x(x∈a ⇒ ∃y∈a(set y∧∀z(z∈y ⇔ z=x∨z∈x))))
無限公理です。
7) ∀x ( (cl x∧∃y(y∈x)) ⇒ ∃z∈x ∀y∈x (¬y∈z) )
正則性公理です。(個体の存在とも両立します。)
8) ∀F ( ∀x∀y∀z ( obj x ∧ obj y ∧ obj z ∧ (x, y)∈F ∧ (x, z)∈F ⇒ y=z)
⇒ ∀a (set a ⇒ ∃b ( set b ∧ ∀y ( y∈b ⇔ obj y ∧ ∃x∈a ( (x, y)∈F )))))
置換公理です。
9) ∃x∀y ( (set y ∧ ∃u(u∈y))
⇒ ∃z (obj z ∧ (y, z)∈x ∧ z∈y ∧ ∀w (obj w ∧ (y,w)∈x ⇒ z=w)))
強選択公理です。
以下の公理も、常識的にはあるとよいかもしれません:
10) set {x | ind x}
11) ∃x (ind x)
以上で、 BGE の定式化を終えます。
やはり、この BGE に対応する(個体を含む) ZFC も定式化できて、BGE が ZFC の
保存拡大になっていることの帰納的な証明を与えることができます。
つまり、BGE の閉論理式 A で、∀, ∃ の記号が すべて
∀x(obj x ⇒ B(x)), ∃x(obj x∧B(x))
の形で現れるものが BGE から証明可能ならば、
A は既に ZFC から証明可能です。
個体を含む ZFC の定式化と、上記超数学的定理の証明は routine だから、
皆自力で出来るでしょう(大嘘・笑)。
このようにして、通常数学の公理系 BGE をちょっと書き換えるだけで、
集合やクラスとしては表現できない概念:「個体」も扱うことが出来ます。
以下に、未解決問題を提出します:
上記 BGE の閉論理式 A で、∀, ∃ の記号がすべて
∀x(cl x ⇒ B(x)), ∃x(cl x∧B(x))
の形で現れるものについて、
もし、上記公理系 1) ~ 11) から A が証明可能ならば、
A は既に 公理系 1) ~ 9) および公理:
12) ∀x(cl x)
からも証明可能か?
また、公理 12) を仮定しないときは、どうか?
つまり、クラスについてのみ主張する閉論理式が、
個体を含む集合論から証明可能ならば、
その論理式は個体を許容しない集合論からも証明可能か?
保存拡大になっているか?
参考文献
E.J. Lemmon 「公理的集合論入門」東京図書
文責: Dr. Kazuyoshi Katogi (加藤木 一好)