この論説はすでに、ブルバキの代数のシリーズによって、
とうの昔に定式化されていますが、
これから群論をはじめとする代数学を学ぶ数学科の学生さんたちにとっての
一助となれば、幸いです。
まず、以下の定義をします。
定義 1
集合 E と 写像 μ:E×E → E の対 (E, μ) を代数系という。
この時、μ を E の内算法と呼ぶ。
定義 2
集合 E と Ω, 写像 Δ: Ω×E → E の三つ組み
(E, Ω, Δ) を、作用域を持つ集合と呼ぶ。
この時、Ωのことを E の作用域、Δのことを E の外算法と呼ぶ。
定義 3
(E, μ) を代数系、R を E 上の同値関係とする。
R が次の条件を満たすとき、R は (E, μ) の合同関係と呼ばれる:
任意の x, y, z ∈ E に対し、
x≡y mod. R ⇒ [ μ(x, z) ≡μ(y, z) mod. R かつ μ(z, x)≡μ(z, y) mod. R ]
定義 4
(E, Ω, Δ) を、作用域を持つ集合、R を E 上の同値関係とする。
R が以下の条件を満たすとき、R を (E, Ω, Δ) の合同関係と呼ぶ:
任意の x, y ∈ E, α∈Ω に対し、
x≡y mod. R ⇒ Δ(α, x) ≡ Δ(α, y) mod. R
定義 5
(E, μ), (F, η) を二つの代数系、f : E → F を写像で、
任意の x, y ∈E に対し、
f(μ(x, y)) = η(f(x), f(y)) を満たすとき、
f を (E, μ) から (F, η) への準同型写像、または準同型と呼び、
f : (E, μ) → (F, η) と表す。
定義 6: (E, Ω, Δ), (F, Ω, Γ) を作用域Ωを持つ集合、
f : E → F を任意の x∈E と α∈ Ω に対し、
f (Δ(α, x)) = Γ(α, f (x)) なるものとするとき、
f を (E, Ω, Δ) から (F, Ω, Γ) への準同型写像、または準同型と呼び、
f : (E, Ω, Δ) → (F, Ω, Γ) と表す。
そこで、以下の定理を示す。
定理 1
代数系 (E, μ) の合同関係 R に対し、π: E → E/R を標準射影とすると、
E/R には (E, μ) の商構造となる代数系の構造がただ一つ定まる。
つまり、E/R の内算法 νがただ一つ存在し、
任意の代数系 (F, η) と 写像 f : E/R → F に対し、
f が (E/R, ν) から (F, η) への準同型なるための必要十分条件は、
f○π (合成写像) が (E, μ) から (F, η) への準同型なることである。
特に、π は (E, μ) から (E/R, ν) への準同型となる。
Remark 1: 逆に、E 上のある同値関係 R による E の商 E/R に、
代数系 (E, μ) の商構造が入り、
標準射影 π: E → E/R が代数系の準同型になるとき、
R が (E, μ) の合同関係であることは、明らかである。
証明.
任意の x, y, z, w ∈ E に対し、
π(x) = π(y) かつ π(z) = π(w) のとき、
x ≡ y mod. R かつ z ≡ w mod. R
で、合同関係の定義より、
μ(x, z) ≡ μ(y, z) ≡μ(y, w) mod. R,
すなわち
π(μ(x, z)) = π(μ(y, w))
となるので、任意の x, y ∈ E に対し、
ν(π(x), π(y)) := π(μ(x, y))
で E/R の内算法 ν を定めることができて、
(E/R, ν) は代数系となり、
π: (E, μ) → (E/R, ν) は準同型となる。
(E/R, ν) が (E, μ) の R による商構造であることを見るために、
f○π : (E, μ) → (F, η) が準同型なるものとする。
この時、任意の x, y ∈ E に対し、
f(ν(π(x), π(y))) = f(π(μ(x, y))) = f○π(μ(x, y))
= η(f○π(x), f○π(y)) = η(f(π(x)), f(π(y)))
i.e, 任意の a, b ∈ E/R に対し、
f(ν(a, b)) = η(f(a), f(b))
となるから、f : (E/R, ν) → (F, η) は準同型である。
E/ R の内算法 νの一意性は、πが準同型になることより、明らかであろう。
証明終わり。
系 1.1 (準同型定理 (内算法版))
f を代数系 (E, μ) から代数系 (F, η) への準同型とするとき、
η の f(E) × f(E) への制限は f(E) の内算法 η_1 を定め、
E 上の同値関係 R を
x ≡ y mod. R ⇔ [ x∈E かつ y ∈ E かつ f(x) = f(y) ]
によって定めると、R は (E, μ) の合同関係で、
(E, μ) の R による商 (E/R, ν) から (f(E), η_1)
への、代数系としての同型 θがただ一つ存在し、
f = θ○ π
となる。ここに、π : E → E/R は標準射影。
証明
まず、η_1 が well-defined であることを見よう。
x, y ∈ E に対し、
η(f(x), f(y)) = f(μ(x, y)) ∈ f (E)
だから、η_1 : f(E) × f(E) → f(E)
は well-defined である。
よって、(f(E), η_1) は代数系である。
次に、R が (E, μ) の合同関係であることを示そう。
x, y, z ∈ E に対し、f(x) = f(y) ならば、
f(μ(x, z)) = η(f(x), f(z)) = η(f(y), f(z)) = f(μ(y, z)).
よって、μ(x, z) ≡ μ(y, z) mod. R.
同様に、μ(z, x) ≡ μ(z, y) mod. R.
よって、R は (E, μ) の合同関係。
そこで、定理 1 より、(E, μ) の R による商構造 (E/R, ν) が
唯一つ存在する。
今、R の定義より、E/R から f (E) への双射 θが唯一つ存在し、
f = θ○π : E → f(E)
と分解できる。
f : (E, μ) → (f (E), η_1) が準同型であることと、
定理 1 で述べた商構造の性質より、
θ: (E/R, ν) → (f (E), η_1)
は 準同型である。
最後に、θの逆写像 g : f (E) → E/R が
(f (E), η_1) から (E/R, ν) への準同型写像であることを見れば、
証明は完了する。
x, y ∈ E を任意にとる。
g (f (x)) = π(x), g (f (y)) = π(y)
より、
θ(ν(π(x), π(y))) = η_1(θ(π(x)), θ(π(y))),
i.e.,
ν(g(f(x)), g(f(y))) = g(η_1(f(x), f(y)))
すなわち、a = f(x), b = f(y) に対し、
ν(g(a), g(b)) = g(η_1(a, b))
となる。
よって、g : (f (E), η_1) → (E/R, ν) は準同型写像である。
証明終わり。
以下の定理も示せる
定理 2
作用域を持った集合 (E, Ω, Δ) の合同関係 R に対し、
π: E → E/R を標準射影とすると、
E/R には (E, Ω, Δ) の商構造となる作用域 Ω を持った集合の構造が
ただ一つ定まる。
つまり、E/R の外算法 Φがただ一つ存在し、
作用域Ωを持った任意の集合 (F, Ω, Γ) と 写像 f : E/R → F に対し、
f が (E/R, Ω, Φ) から (F, Ω, Γ) への準同型なるための必要十分条件は、
f○π が (E, Ω, Δ) から (F, Ω, Γ) への
準同型なることである。
特に、π は (E, Ω, Δ) から (E/R, Ω, Φ) への準同型となる。
Remark 2: 逆に、E 上のある同値関係 R による E の商 E/R に、
作用域 Ω を持った集合 (E, Ω, Δ) の商構造が入り、
標準射影 π: E → E/R が作用域Ωを持った集合の準同型になるとき、
R が (E, Ω, Δ) の合同関係であることは、明らかである。
証明
π が準同型にならなくてはいけないので、
Φ は、公式
Φ(a, π(x)) = π(Δ(a, x))
で定めなくてはならない。
このΦが well-defined であることを見よう。
任意の x, y ∈ E, a ∈ Ω, x≡y mod. R に対し、
Δ(a, x) ≡ Δ(a, y)
となるので、
Φ(a, π(x)) は c = π(x) の代表元 x の取り方によらない。
よって、Φは well-defined である。
今、作用域Ωを持った集合 (F, Ω, Γ) と写像 f : E/R → F
を考える。
f○π: (E, Ω, Δ) → (F, Ω, Γ) が準同型とすると、
任意の c = π(x) (x∈E), a∈Ω に対し、
Γ(a, f (c)) = Γ(a, f○π(x)) = f○π(Δ(a, x))
= f (π(Δ(a, x))) = f (Φ(a, π(x))) = f (Φ(a, c))
となるので、f : (E/R, Ω, Φ) → (F, Ω, Γ)
は準同型である。
証明終わり。
系 2.1 (準同型定理 (外算法版))
(E, Ω, Δ) と (F, Ω, Γ) を作用域Ωを持った集合、
f を (E, Ω, Δ) から (F, Ω, Γ) への準同型とするとき、
Γ の Ω × f(E) への制限は f(E) の外算法 Γ_1 を定め、
E 上の同値関係 R を
x ≡ y mod. R ⇔ [ x∈E かつ y ∈ E かつ f(x) = f(y) ]
によって定めると、R は (E, Ω, Δ) の合同関係で、
(E, Ω, Δ) の R による商 (E/R, Ω, Φ) から (f(E), Ω, Γ_1)
への、作用域Ωを持った集合としての同型 θがただ一つ存在し、
f = θ○ π
となる。ここに、π : E → E/R は標準射影。
証明.
まず、Γ_1 が well-defined であることを示そう。
任意の x∈E と a∈Ωに対し、
Γ(a, f(x)) = f (Δ(a, x)) ∈ f (E)
だから、確かに、Γ_1 は well-defined で、
(f (E), Ω, Γ_1) は作用域Ωを持った集合である。
次に、R が (E, Ω, Δ) の合同関係であることを示そう。
x, y ∈ E, a∈Ω, f(x) = f(y) のとき、
f(Δ(a, x)) = Γ(a, f(x)) = Γ(a, f(y)) = f(Δ(a, y))
i.e.,
Δ(a, x) ≡ Δ(a, y) mod. R.
よって、R は (E, Ω, Δ) の合同関係である。
よって、R による (E, Ω, Δ) の商構造 (E/R, Ω, Φ) が存在する。
今、R の定義により、双射 θ: E/R → f (E) が存在し、
f = θ○π
となる。
よって、
f : (E, Ω, Δ) → (f (E), Ω, Γ_1) が準同型であることと、
商構造の性質より、θ : (E/R, Ω, Φ) → (f (E), Ω, Γ_1) は
準同型写像である。
最後に、θの逆写像 g : f (E) → E/R が
(f (E), Ω, Γ_1) から (E/R, Ω, Φ) への準同型であることを示そう。
x ∈ E, c = f(x), a∈Ω とする。
g(c) = π(x) である。
θ(Φ(a, π(x))) = Γ_1 (a, θ(π(x)))
つまり、
Φ(a, g(c)) = g (Γ_1(a, f(x))) = g (Γ_1(a, c))
となり、g : (f (E), Ω, Γ_1) → (E/R, Ω, Φ) は準同型である。
証明終わり。
文責: Dr. Kazuyoshi Katogi