今回の数学エッセーでは, ルベーグの被覆補題の一様空間バージョンを,
ZF の下で証明します.
補題: X をコンパクト一様空間, S を X の対称開近縁の全体,
A を X の開被覆とすると, A の有限個の元 U_1, ・・・, U_n と W ∈ S が存在し,
任意の x ∈ X に対し, W(x) = { y ∈ X | (x, y) ∈ W } が,
ある U_i ( 1 ≦ i ≦ n ) に含まれる.
(X がコンパクトとは, X の任意の開被覆が, 有限部分被覆を持つことと約束する.)
証明.
B = { K | ( ∃ x ∈ X) ( ∃ V ∈ S ) ( ∃ U ∈ A ) ( V^2 (x) ⊆ U & K = V(x) ) }
と置く. ここに,
V^2 = { (z, w) ∈ X × X | ( ∃ t ∈ X ) ( (z, t) ∈ V & (t, w) ∈ V ) } ∈ S
である.
さて, B は明らかに X の開被覆だから, n ∈ N と
X の n 個の点 x_1, ・・・, x_n と
S の n 個の元 V_1, ・・・, V_n と
A の n 個の元 U_1, ・・・, U_n が存在し,
( V_i )^2 (x_i) ⊆ U_i ( 1 ≦ i ≦ n )
かつ
V_1 (x_1) ∪ ・・・∪ V_n (x_n) = X
となる. この時,
W = V_1 ∩・・・∩ V_n
が問いに答える近縁である.
実際, 任意の x ∈ X に対し, ある i ( 1 ≦ i ≦ n ) が存在し,
x ∈ V_i (x_i)
となるので,
W(x) ⊆ V_i (x) ⊆ ( V_i )^2 (x_i) ⊆ U_i
となり, 補題は証明された.
参考文献
一様空間論, 近縁という用語については, N. Bourbaki 数学原論 位相 Chapter 2 を参考のこと.
また, この補題のオリジナルの証明を初めて見たのは, twitter にリンクのあった,
箱(@o_ccah) さんの pdf です. ここに, オリジナルの出典を明らかにしておきます.
ただし, その pdf では, 選択公理を使っていましたので, この数学エッセーでは,
今回, 選択公理なしの証明を与えてみました.
文責: Dr. Kazuyoshi Katogi