kazz の数学旅行記

数学の話題を中心に, 日々の知的活動の旅路を紹介します.

階差と高階微分について~フレッシェ微分の世界での話~

数学のノートを更新しました. 

 

微分多様体の基礎

 

です. 最近まで, §19 で, 階差と高階微分についての定式化を行なっていました.

 この定式化の目的は, 階差の収束によって, 高階微分の順序の交換が, 

 どのような形で保証されるかを明確にすることです.

 

次の定理は, 高階微分係数の対称性についての基本です:

 

定理 1

K = R or C とする.

E を K ノルム空間, U を E の開集合, a ∈ U, n を 2以上の自然数

F を分離多ノルム空間, f: U → F を n-1 回微分可能な関数で, 

D^{n-1}f : U → L_{n-1}(E; F) は点 a において微分可能とする.

この時, D^n f (a) は連続対称 n 複線型写像である.

 

証明のための, 最もエッセンシャルな性質は, 有限増分の定理です.

f の高階階差は, 

Δ_0 f = f,

Δ_n f ( x , y_1, ... , y_n )

= Δ_{n-1} f ( x + y_n , y_1, ... , y_{n-1} ) -  Δ_{n-1} f ( x, y_1, ... , y_{n-1} )

によって定義され, x ∈ U と十分 0 に近い y_1, ... , y_n ∈ E に対して, 

この定義は意味を持ちます.

 

そして, スカラー t が t → 0 ( t  ≠ 0 ) の時, 

 

Δ_n f ( a , t y_1, ... , t y_n ) / t^n → D^n f(a) ( y_1, ... , y_n ) in F

 

となり, Δ_n f ( a , y_1, ... , y_n ) の ( y_1 , ... , y_n ) に関する対称性から, 

 

D^n f(a) の対称性がわかります. 

 

 

 

階差の収束から, 高階微分の存在を保証する定理もあります.

これは, 係数体 K が離散でない付値体の場合に定式化されます. 

 

定理 2

K を離散でない付値体, n を 1以上の自然数

E を K ノルム空間, U を E の開集合, F を分離多ノルム空間, 

f : U → F, a ∈ U,

g_k : U × E^k → F ( 1 ≦ k < n ), 

g ∈ L_n (E; F)

とし, g_k の adjoint g'_k : U → F(E^k; F) は,

g'_k : U → L_k (E; F)

となっているとする.

 

更に, 1 ≦ k < n  と任意の x ∈ U に対し, t_1, ... , t_k → 0 in K, 

( t_1, ... , t_k ≠ 0 )

の時, y_1, ... , y_k が E の有界集合を動く時に一様に, 

 

Δ_k f ( x, t_1 y_1 , ... , t_k y_k ) / (t_1・・・t_k) → g_k (x, y_1 , ... y_k ),

 

かつ, t_1, ... , t_n → 0 in K, ( t_1, ... , t_n ≠ 0 )

の時, y_1, ... , y_n が E の有界集合を動く時に一様に, 

 

Δ_n f ( a, t_1 y_1 , ... , t_n y_n ) / (t_1・・・t_n) → g ( y_1 , ... y_n )

 

となっているとする. この時, f は n-1 回微分可能で, 

D^{n-1} f は点 a において微分可能, かつ, 任意の x ∈ U, 任意の k ∈{ 1, ... , n-1 } , 

任意の y_1 , ... , y_n ∈ E に対して, 

 

D^k f (x) (y_1, ... , y_k ) = g_k ( x, y_1, ... , y_k )

D^n f (a) (y_1, ... , y_n ) = g ( y_1, ... , y_n )

 

となる.

 

ちなみに, 昨日定式化していたのは,

Schwartz の定理のフレッシェ微分バージョンの定式化です: 

 

定理 3

E_1, E_2 を 実ノルム空間, U_1, U_2 を それぞれ, E_1, E_2 における原点の開近傍, 

F を分離多ノルム空間, f : U_1 × U_2 → F を写像で, 偏微分

 D_1 f,

 D_2 f, 

 D_2 D_1 f

 が存在し, D_2 D_1 f : U → L(E_2; L(E_1; F)) は原点で連続と仮定する.

 この時, D_2 f は原点において, E_1 方向に偏微分可能であり,

 任意の x_1 ∈ E_1,  x_2 ∈ E_2, に対して,

 D_1 D_2 f(0, 0)(x_1)(x_2) = D_2 D_1 f(0, 0)(x_2)(x_1)

 が成り立つ. 

 

偏微分とか D_1 とか D_2 とか言っておりますが, 

 これらは全て, フレッシェ微分で考えております. 

 

 

 

 

文責: Dr. Kazuyoshi Katogi