今回は、学問の数学が、試験の数学といかに異なるかという話題です。
結論を言ってしまうと、最もわかりやすい違いは、制限時間があるかないかという点です。
その違いは、学問の勉強と試験の勉強での、やるべきこと、できることの違いを、
如実に物語っています。
試験には制限時間があります。
したがって、試験の問題は、解き方を知っていて、手早く処理をできる人間のみが、
制限時間内に解けるように、調整されています。
その目的は、短時間の学力検査で、受験者を合格者と不合格者に分けるためです。
逆に、試験を受ける立場から言えば、試験のための勉強は、
[1] 問題の解き方を覚える
[2] 速く処理ができるよう、訓練をする。
この2点に尽きます。
特に、大学受験の勉強は、この傾向が強まります。
これはもはや、学問の勉強ではありません。
私はよく、
『どうして数検を受けないの?』
と訊かれますが、
いつも
『私のやっている数学は、試験の数学とは違うから』
と答えることにしています。
一方で、学問の数学には、原則的に、制限時間はありません。
その代わり、新しい発見のため、時間をかけて、試行錯誤することが求められます。
実際に、以下のプレプリントは、私が 3年かけて解いた問題の回答です。
数検はたとえ 1級でも、解くのに 3年かかる問題は出題できません。
また、私の博士論文もあげておきます。
この論文は、大学の数学科に在籍しない頃から、私が数学を 15年以上勉強した後に、
書き上げたものです。
こんなものを基準に、試験問題を作れるわけがありません。
私が自分の持ちたい肩書きとして、数検1級ではなく博士号を選んだのも、
学問の数学の能力を評価して欲しかったからです。
数検1級の方は、過去問を見たこともありますが、私の価値観では、魅力を感じませんでした。
これが、学問の数学と、試験の数学の違いです。