今回の数学エッセーは, 純粋数学の技術的内容についてではなく,
数学専門外の方や, 一般の方向けに,
『数学の概念の存在とは何か』
と言うことを解説します.
これには明白な答えがあって,
数学的な概念が『存在』する, と言った場合の意味は, 大雑把に言うと,
『数学的な文章で, 矛盾なく記述できる.』
と言う意味です.
ここで, 数理論理学の立場では, 数学的な文章 = 論理式で,
『矛盾なく記述できる』の意味は,
ここでは,
[1] (形式的体系から) 証明可能
の意味に捉えてください.
(矛盾がないと言う言葉の意味と, 証明可能と言う言葉の意味は, 厳密には異なりますが,
一般の方向けに, 敢えて, 厳密さを犠牲にしています.)
例えば, 形式的体系 ZF では,
自然数の全体 N は, 有限順序数の全体として『記述』され,
整数の全体 Z は可換半群 N の対称化として『記述』され,
有理数の全体 Q は環 Z の乗法に関する対称化に標準的な加法構造を与えた体として『記述』され,
実数の全体 R は自然位相を備えた Q の完備化として『記述』され,
複素数の全体 C は 不定元 x を持つ多項式環 R[x] の, 主イデアル (x^2 + 1) による
商体 R[x] / (x^2 + 1)として『記述』され, 虚数単位 i は x の R[x] / (x^2 + 1) に於ける
標準像として『記述』されます.
以上の『記述』に矛盾がないことは, ZF 内部で, 全て確認されています.
(ZF そのものの無矛盾性は仮定します.)
このことから, 数学における『存在』は, 物理的な意味での『実在』とは異なります.
端的に言うと, 実際に触ったり持ち上げたりできる, と言う意味での『存在』ではありません.
あくまで,
『数学的文章による, 矛盾なき記述』
が基準となります.
文責: Dr. Kazuyoshi Katogi