今回の数学エッセーは, 正則性公理に関する誤解について記述します.
正則性公理については Google 検索をはじめとして, AI の出力する文章や, 数学の専門外の方が, 下記のような記述をされているケースが時々見受けられます:
『正則性公理は集合論の矛盾を排除するために導入された.』
しかし, これは間違っています. 集合論 ZFC には正則性公理が仮定されていますが, ZFC から正則性公理を取り除いた形式的体系を ZFCA とします.
ここでもし, ZFCA が矛盾すれば, 当然, ZFC も矛盾します.
詳細をなるべく手短に言うと, ZFCA が矛盾する時, ZFCA の公理であるところの論理式の全称閉包からなる有限列 A_1, ・・・, A_n を有限時間内に構成し, sequent
A_1, ・・・, A_n →
が LK-provable となります. ここで, 正則性公理を表現する論理式を A とすると, 増と換より, sequent
A_1, ・・・, A_n, A →
が LK-provable となります. つまりこれは, ZFC が矛盾することを示しています.
要するに, 正則性公理がない状態 (ZFCA) で矛盾すれば, 正則性公理を付け足した状態 (ZFC) でも, 自動的に矛盾するのです. このことは, 選択公理のない状態 (ZF や ZF から正則性公理を取り除いた形式的体系 ZFA) で考えても全く同様です.
文責: Dr. 加藤木 一好