今回の数学エッセーでは, ZFC の中のマイナーな公理, 正則性公理について, それが案外重要であることを説明します.
よく, working mathematicians の間では, 論理式 A(n, x) について,
(∀n ∈ N)(∃x)A(n, x)
が成り立っている時, 各自然数 n に対して A(n, x) を満たす対象 x = x_n を選んで, それら x_n の全体 B = {x_n | n ∈ N} を一つの集合として扱うと言うシチュエーションが発生します. ただし, N は自然数の全体とします.
各 n ∈ N に対して x_n を選ぶわけですから, これは (可算) 選択公理だ!と思われるかもしれません.
それは半分正しいです. しかし, B = {x_n | n ∈ N} を集合として扱うためには, 選択公理のみならず, 正則性公理も必要なのです.
どう言うことでしょうか?
実際, 任意の n ∈ N に対して, A(n, x) を満たす x に対する x の rank の最小のものを α(n) とします. この α(n) が定義されるのは, 正則性公理より, V = R が成り立っているから, それが可能となります.
そこで, β = sup_{n ∈ N} (α(n) + 1) とし, 各 n ∈ N に対して R_β の中から A(n, x) を満たす x = x_n を選ぶことが可能です. ここで, R は累積的階層です. (このために, 集合 R_β を整列すれば良い.) そこで, B = {x_n | n ∈ N} が R_β の部分集合として確定するわけです.
上記の議論は形式的体系 ZFC の中で合法的に遂行されます.
ところが, ZFC から正則性公理を取り除いた形式的体系を ZFCA とすると, ZFCA の論理式 A(n, x) をうまく構成して, ZFCA の中で, 論理式:
(∀n ∈ N)(∃x)A(n, x) ⇒ (∃b)(∀n ∈ N)(∃x ∈ b)A(n, x)
が証明不可能であることを primitive recursive な方法で証明することができます.
いわば, ZFCA の中では収集原理が証明不可能なわけです.
従って, 形式的体系 ZFCA 内では, 一般には ZFC の時のような B = {x_n | n ∈ N} を集合として考えることができません.
この点から言えば, 正則性公理は地味で目立たないけれど, 数学では非常に重要な役割を演じていると考えられます.
参考文献: Sets and Classes, on the work by Paul Bernays, North-Holland.
文責: Dr. 加藤木 一好