kazz の数学旅行記

数学の話題を中心に, 日々の知的活動の旅路を紹介します.

偏微分と全微分に関するある問題.

今回の数学エッセーでは、下記の問題について考えます:

 

U を R^2 の開集合, f : U → R を写像で, 任意の z ∈ U に対して 

D_1 f(z) と D_2 f(z) が存在し, D_1 f , D_2 f : U → R は 

点 a = (a_1, a_2) ∈ U に於いて連続とする.

この時, f は点 a ∈ U に於いて全微分可能となるか?

 

答えは Yes です.

 

証明: 任意に ε>0 を取る. b>0 を |z-a| ≦ b なる任意の z ∈ R^2 に対して

 

z ∈ U かつ

|D_i f(z) - D_i f(a)| ≦ ε

 

が成り立つようにする. 

 

そこで, |h| ≦ b なる任意の h = (h_1, h_2) ∈ R^2 に対し, a+h ∈ U で,

有限増分の定理より, 

|f(a+h) - f(a) - D_1 f(a)h_1 - D_2 f(a)h_2 |

 ≦ |f(a_1 + h_1, a_2 + h_2) - f(a_1+h_1, a_2) - D_2f(a)h_2|

    + |f(a_1+h_1, a_2) - f(a_1, a_2) - D_1 f(a)h_1|

≦ sup_{0<t<1}|D_2f(a_1+h_1, a_2 + th_2) - D_2f(a)|・|h_2|

   + sup_{0<t<1}|D_1f(a_1+th_1) - D_1f(a)|・|h_1|

≦ 2ε(|h_1| + |h_2|)

 

となるから, f は点 a ∈ U に於いて全微分可能である.

 

上記の問題は Yahoo 知恵袋の大学数学カテゴリーで見たのですが,

カテゴリーマスターの肩書きを持つある回答者が,

次の間違った解答をしておりました:

 

『答えは No である.』

 

証明:

 

f(x, y) = 0 for xy =0

f(x, y) = 1 for xy ≠ 0

a = 0

 

なる関数 f:R^2 → R と点 a がその反例である.

 

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実は, この f は, c ≠ 0 なる任意の実数 c に対して D_2 f (c, 0) と D_1 f (0, c)

が存在しないため, 問題の反例になっていません.

 

所詮 Yahoo 知恵袋はネットの怪しい掲示板で, そのカテゴリーマスターというのも, たとえそれが大学数学のジャンルであっても, 大学数学に関しては素人なのです.

 

 

 

文責: Dr. 加藤木一好