集合論 ZF では、集合だけを研究の対象にすると考える人がいます。
でも、それはちょっと違います。
集合論を記述するための論理式。
この論理式も、研究の対象になります。
例として、二項関係を取ってみましょう。
例 1)
集合 E 上の同値関係 R
この場合、
1.1 R⊆E×E
1.2 全ての (x, y) ∈ R に対し、(y, x)∈R
1.3 全ての (x, y) ∈ R と (y, z) ∈ R に対し、(x, z) ∈ R
1.4 全ての x∈E に対し、(x, x) ∈ R
が、R が E 上の同値関係であることの条件です。
R は E×E の部分集合です。
では、次の例はどうでしょう?
例 2)
集合 E と集合 Fが等濃であるという関係: E~F
この場合、
2.1 E~F ⇔ E から F への全単射が存在する。
となります。もはや、E~F なる対 (E, F) の全体は集合ではありませんが、
E~F は、論理式として定義される二項関係です。
「~」それ自体は集合ではなく、二つの集合の
直積集合に含まれるわけでもありません。
E~F は、E と F を二つの変数として持つ
論理式であることに注意しましょう。
例 3)
順序数 α 上の順序関係 <
3.1 y<z ⇔ y∈α かつ z∈α かつ y∈z
です。
言い換えると、
3.2 <={ (y, z) ∈ α × α | y∈z}
と考えられます。
つまり、この場合は < ⊆ α × α
と考えられるのです。
例 4)
順序数同士の順序関係 x<y
4.1 x<y ⇔ x と y は順序数で、x から y の真の切片の上への順序同型が存在する。
となります。このとき、x<y なる対 (x, y) の全体は集合ではありませんが、
x<y それ自体は、x と y を二つの変数として持つ論理式として
定義されています。
ここでも、二項関係 x<y は、論理式によって定義された二項関係で、
「<」そのものが集合として定義されているわけではないことに注意しましょう。
もちろん、「<」が二つの集合の直積集合に含まれる集合と言うわけでもありません。
ちなみに、この x<y は
4.2 x と y は順序数で x∈y
と言う論理式と、ZF の中で同値です。
様々な関係式が、集合としてだけではなく、論理式として定義されます。
そうすることによって、集合概念だけでは扱いきれない二項関係などが
スムーズに扱えるからです。
キーワード:「論理式」
このあたりの議論を理解して納得行くためには、
述語論理や等号述語論理の学習が不可欠です。
大学初年級の集合論の講義では、「論理式」を「命題」と
置き換えて説明される教官も多いですね。
余談ですが、集合論 BG のほうでは、ZF の論理式を(必ずしも集合ではない)
類として扱うことにより、集合間の二項関係などが、より扱いやすくなっています。
集合論の文献については、長くなりますので、
以下の記事を参考にされてください。
入門編、初心者向けですが、6冊紹介しています。
文責: Dr. Kazuyoshi Katogi (加藤木 一好)