今回の数学エッセーでは、Yahoo 知恵袋の数学質問コーナーで見かけた、
以下の問題について、論じます。
(Yahoo ブログから、引っ越してきています。)
問題: A を実対称行列とするとき, B^2 = A となるような
実対称行列 B が存在するための必要十分条件を挙げよ.
また, そのとき, B^2 = A なるような実対称行列 B は,
いくつあるか?
以下の定理を証明します:
定理 1
A を n 次実対称行列 とするとき, 実対称行列 B が存在し,
B^2 = A なるための必要十分条件は,
A の固有値が全て 非負であることが必要十分である.
また, このとき, B^2 = A なる実対称行列 B の個数は,
A の正の固有値で重複度が ≧ 2 のものがあれば, それは連続濃度であり,
A の正の固有値の重複度が全て 1 の時は,
A の正の固有値の個数を m とする時, 2^m 個である.
証明:
まず, 必要性を示す. A を n 次正方行列とする.
A = B^2 の時, 明らかに,
R^n のある正規直交基底 ( u_1, ... , u_n ) に関する
A, B の表現行列が, 対角行列になるようにできる.
すなわち, n 次直交行列 U が存在し,
U^{-1} A U と U^{-1} B U が対角行列となる.
この時,
( U^{-1} B U )^2 = U^{-1} A U
従って, A の固有値は, 全て非負である.
逆に, A の固有値 a_1, ... , a_n が全て非負の時,
直交行列 U を適当に選び,
U^{-1} A U が, a_i ≧ 0 を i 番目の対角成分に持つ
対角行列になるようにできる.
そこで, b_i = √a_i, c_i ∈ {+1, -1}
とし,
c_i × b_i
を i 番目の対角成分に持つ対角行列を
D とすると,
B = U D U^{-1}
は, A = B^2 を満たす実対称行列で,
このような B は, A の正の固有値の重複度の和を
m とする時, 「本質的に異なる」ものが
少なくとも 2^m 個あることがわかった.
定理の最後の主張は, B の構成と同時対角化の定理,
及び, A の正の固有値の各固有空間が R 上 1次元なることより,
直ちにわかる.
さて, A の正の固有値で重複度 ≧ 2 のものが存在する場合,
B^2 = A なる実対称行列 B が, 連続濃度だけ存在することを示そう.
A の相異なる固有値に関する固有空間は互いに直交するので,
n = 2 と仮定して, 一般性を失わない.
A の (i, j)-成分を a(i, j) と書くことにして,
A=
[ a(1, 1), a(1, 2) ]
[ a(2, 1), a(2, 2) ]
と書くことにする.
A =
[ a, 0 ]
[ 0, a ]
で, a>0 と仮定して一般性を失わない.
0≦x<π として,
P(x)=
[ cos x, -sin x ]
[ sin x, cos x ]
を考えると,
( P(x) )^{-1}=
[ cos x, sin x ]
[ -sin x, cos x ]
となる.
B(x) = ( P(x) )^{-1} C P(x),
C=
[ √a, 0 ]
[ 0, -√a ]
として B(x) を計算すると,
B(x)=
[ √a cos (2x), - √a sin (2x) ]
[ - √a sin (2x), - √a cos (2x) ]
となるので B(x) は実対称行列で,
0 ≦ x < y < π のとき,
B(x) ≠ B(y)
であり, なおかつ,
( B(x) )^2 = A
となる.
よって, B^2 = A なる実対称行列 B は,
連続濃度だけ存在する.
最後に, 以下の問題を提起しておく:
B^2 = A なる実対称行列 B をどのようにして分類するか?
一般に, 自然数 n と 実対称行列 A に対し,
B^n = A なる実対称行列 B をどのように分類するか?
文責: Dr. Kazuyoshi Katogi