kazz の数学旅行記

数学の話題を中心に, 日々の知的活動の旅路を紹介します.

数学エッセー

数学的帰納法による証明の記述の仕方について

ある方が、数学的帰納法の記述の仕方について、 すごく悩んだことがあると、呟いておりました。 『a+b に関する帰納法で証明する。 n = a+b と置き, a+b が n よりも小さい場合には成り立っていると仮定して, ・・・』 と言う下りが、悩みの元だったそうだ。…

数学の定理のコード番号による管理について。

某掲示板で、次のようなご意見を伺ったことがあります。 『数学の定理も、数字・番号で管理すれば、便利ではないですか? 例えば、「ピタゴラスの定理により」という文面は、 「定理 A-1786 により」とすれば、読む側にとって便利だと思うのですが。』 はっ…

命題論理に必要な公理シェーマと推論規則の数

今回は論理学について、比較的シンプルな話題です。 命題論理に必要な公理シェーマと推論規則の数について、 少なければ少ないほどいい、という立場で論ずるならば、 最終的な回答は、旧ソ連の論理学者、ルカシュビッツによって与えられています。 つまり、 …

3点公式, 5点公式, 7点公式, ・・・ (2n+1)点公式

数値微分で有名な, 3点公式, 5点公式, 7点公式 を一般化した, (2n+1) 点公式 を定式化しました. 微分多様体の基礎1 上記ファイルの section 20.3 に記述しました. Df(a) = (c_1 (f(a+h) - f(a-h)) + ・・・+ c_n (f(a+nh) - f(a-nh)))/h - d D^{2n+1}f(a)h^{…

テイラーの公式

面粗さの勉強が終わったので, 微分法の定式化に取り掛かっております. pdf を更新しました. 微分多様体の基礎 1 今回の更新は, 定理 20.2.1 と, 系 20.2.2 の, テイラーの公式の, 漸近展開としての一意性の部分です. 定理: K を実または複素数体, E を K ノ…

有限の立場での自然数論

数学ノートを新しく作りました. 不完全性定理の pdf これは現在途中まで執筆中です. タイトルは不完全性定理となっておりますが, まだ, 不完全性定理の本題には入っておらず, 有限の立場での自然数論の定式化まで, 完了しております. pdf 本文では,『超数学…

√2が無理数であることの証明は帰謬法 (背理法) になっているか?

我々は, 高校数学で, √2 が無理数であることの, 帰謬法による証明を習います. 推論の中核を言葉で書くと, 以下のようになります: 『√2が有理数と仮定して矛盾が出た. 従って, √2 は無理数である.』 しかし, この推論は, 論理的には, 帰謬法ではありません. …

IΣ_1 での自然数論

第二不完全性定理が成り立つ形式的体系として, IΣ_1 というものがあると聞きました. 最近の勉強は, IΣ_1 における第二不完全性定理の定式化です. IΣ_1 における自然数論が, 半環の公理を満たすことの証明が, これまたデリケートです. 数学的帰納法の適用の際…

テイラーの公式

微分多様体の基礎 1 更新しました. section 20, テイラーの公式の定式化です. 係数体は R or C です. 定式化には 3種類あって, U が ノルム空間 E の開集合, F が分離多ノルム空間の時, [1] f : U → F が n 回微分可能で D^n f が 点 a ∈ U において微分可能…

Young の定理 〜フレッシェ微分バージョン〜

休日の時間を利用して, 数学ファイルの更新を行なっております. 微分多様体の基礎 1 今回は, 先週の続きです. 上記ファイルの, section 19.5 で定式化されている, Young の定理です: 定理 19.5.6 K を R 又は C, E_1, E_2 を K ノルム空間, F を分離多ノルム…

階差と高階微分について~フレッシェ微分の世界での話~

数学のノートを更新しました. 微分多様体の基礎 です. 最近まで, §19 で, 階差と高階微分についての定式化を行なっていました. この定式化の目的は, 階差の収束によって, 高階微分の順序の交換が, どのような形で保証されるかを明確にすることです. 次の定理…

フレッシェ微分可能関数の合成関数の高階微分係数の計算

今回の数学エッセーでは、執筆中の私の数学ノートから、 フレッシェ微分可能関数の合成についての話題を紹介します。 K を離散でない可換付値体, E, F を K ノルム空間, U を E の開集合, V を F の開集合, G を K 多ノルム空間, r を 1以上の自然数, f : U …

多様体ファイルの更新

多様体ファイルの更新です: https://yahoo.jp/box/P2FpWt このファイルは, 以前, ブルバキ多様体 補足 B としておりましたが, タイトルを 『微分多様体の基礎』 に変更しました. 更新場所は, p.129 (pdf 138枚目) の, 定義 16.3.2 の 4. です. D(r; r_1, ...…

F 型フィルターと点列.

今回の数学エッセーでは,『点列完備』なる概念を一般化することを考えます. 詳しいことは, 以下の pdf の section 3.23 に掲載されています. kazz 位相 一様空間 X が点列完備であるとは, X 内の任意のコーシー列が収束することでした. そこで, この『点列』…

正方行列の空間における可逆行列の全体の稠密性.

今回の数学エッセーでは, 某掲示板で見た, 次の定理を証明します: 定理: K を離散でない位相体, n を自然数とする. M_n (K) を K 係数の n 次正方行列の全体に, K^{n^2} 次元左ベクトル空間としての標準的な K 位相線型空間としての位相を与えた位相空間, G_…

連続単射実関数が真に単調なることの, ZF の下での証明.

今回の数学エッセーでは, ZF のもとで, 次のことを証明します: J が R の区間, f : J → R が連続単射ならば, f は真に単調となる. 証明: まず, 注意として, [1] pp.130-131 の証明によれば, R の任意の区間が連結であることは, ZF の下で証明できる. そこで,…

relative CW complex の T_3 性.

今回の数学エッセーは, 位相幾何学について, 下記の事実についての紹介です. 定理: ZF の下で, 次のことが証明できる: (X, A) を relative CW complex で, A を T_3 空間とすると, X も T_3 空間となる. この定理は, 私の博士論文の section 4 の冒頭でも, (…

数学の概念の『存在』の意味.

今回の数学エッセーは, 純粋数学の技術的内容についてではなく, 数学専門外の方や, 一般の方向けに, 『数学の概念の存在とは何か』 と言うことを解説します. これには明白な答えがあって, 数学的な概念が『存在』する, と言った場合の意味は, 大雑把に言うと…

可測集合と可測関数によって囲まれた立体の体積の問題.

今回の数学エッセーでは, 次の定理を証明します: 定理: μ_n を n 次元ルベーグ測度, D ⊆ R^2 を μ_2 可測集合, f : D → [0, +∞[ を μ_2 可測関数, A = {(x, y, z) ∈ R^3 | (x, y) ∈ D & 0 ≦ z ≦ f(x, y)} ・・・(1) とする時, A は μ_3 可測で, 上積分に関す…

ルベーグの被覆補題の一様空間バージョンの ZF のもとでの証明

今回の数学エッセーでは, ルベーグの被覆補題の一様空間バージョンを, ZF の下で証明します. 補題: X をコンパクト一様空間, S を X の対称開近縁の全体, A を X の開被覆とすると, A の有限個の元 U_1, ・・・, U_n と W ∈ S が存在し, 任意の x ∈ X に対し…

数学の証明の無駄の省き方 (LK におけるカット消去)

この数学エッセーでは, 数学の証明の無駄の省き方について, 数学基礎論の立場で, 紹介します. ここでは, 例として ZFC の公理系について論じますが, 他の形式的体系についても同様です. 実は, 数学では, ZFC から命題 A を証明した時に, その証明に無駄があ…

多様体論から代数幾何学への橋渡しをする本

僕は以前, 代数幾何学の本の最初の方を少し読んで, 「環付き空間」なる記述を見かけたことがあります. そのときの感想 「なにこれ?」 見事につまづきました(笑) それから 2 年くらいののちに, 僕は, ある本と出会いました. C^∞ Differentiable spaces (Sp…

non-degenerate な可微分写像の単射性

ある掲示板で, 次のような問題を見かけました: f : R^n → R^n が至る所微分可能で, そのヤコビ行列式 det J(f(x)) が至る所 ≠ 0 ならば, f は R^n 上 1-1 になるか? 答え. n>1 であれば, 反例があります. x = (x_1, ... , x_n) ∈ R^n に対して, f(x) = f(x_1…

不等式の簡単な問題

今日は, 某掲示板で見た, シンプルな問題です. f:R → R を関数で, 任意の x, y ∈ R に対し, f(x) - f(y) ≦ (x-y)^2 が成り立っているとする. このとき, f は定値関数であることを示せ. 解法 x と y の役割を入れ替えれば, 任意の x, y ∈ R に対し, f(y) - f(…

グラフが弧状連結になる関数の連続性

今回の数学エッセーでは, R のコンパクト区間 [a, b] からハウスドルフ空間 Y への写像 f のグラフ G が弧状連結の時, f が連続になることを証明します. f が連続ならば明らかに, G は弧状連結となりますから, この逆が成り立つ, という定理です. https://ka…

グラフが連結になる関数は連続とは限らない

今回の数学エッセーでは, 関数のグラフの連結性と 関数の連続性についての関係を話題にします. 初等的な, 軽い話題ですが, 某掲示板で, 関数の連続性を, そのグラフの連結性と混同しているかのような 記述を見かけましたので, 一つ, 注意を喚起しておきます.…

一様空間と選択公理

今回の数学エッセーでは, 一様空間論について, 軽い話題です. 一様空間論は, ブルバキの位相 Chap.2 において定式化されています. その中で重要な定理は, 一様空間の分離完備化や, よく知られた定理: 『準コンパクト一様空間から一様空間への連続写像は, 一…

ブルバキ数学原論に超限論的選択関数が出てくる理由

ブルバキの数学原論には, 超限論的選択関数が出てきます. A(x) を x を変数とする論理式とする時, τ_x(A(x)) の形で, A(x) を満たす x が存在する時は, そのような xのうちの一つ, A(x) を満たす x が存在しない時は, ある一つの対象を表します. ブルバキは,…

選択公理と可測集合

今回の数学エッセーのテーマは, 選択公理と可測集合です. と言っても, 基礎論を勉強されている方にとっては, よく知られている結果ですが. 以下のような疑問を呈する方がいました: 『R の Lebesgue 非可測部分集合の構成には, 選択公理が必要ですか?』 答え:…

写像の一点における値と写像による集合の像の違い

今日は, 数学をする上では紛らわしい, 記号の区別についてです. 以前も、同じようなことを書いたかも知れません. E, F を集合, f : E \to F を写像とします. 集合論的には, f = (G, E, F) なる三つ組で, G \subseteq E \times F であり, 任意の x \in E, y, …