kazz の数学旅行記

数学の話題を中心に, 日々の知的活動の旅路を紹介します.

数学エッセー

数学クイズ

今回の数学クイズは, ある中学生の方が, おじいちゃん, この問題解ける? と, おじいちゃんに出題し, そのおじいちゃんは解けずに, おじいちゃんの知り合いの, 数学マニアの方に依頼したのですが, その数学マニアの方も解けず, 僕のところに回ってきたもので…

位相空間の部分集合の境界についての話

位相空間 X の部分集合 M, N に対し, M^f と N^f をそれぞれ, M, N の境界とする時, M ⊆ N ⇒ M^f ⊆ N^f が成り立たないのは不思議だ, という, 素朴な疑問を聞いたことがあります. 学部生の方でしょうか, 位相について, あまりにも難しく考えすぎて, 素朴な例…

中間値の定理と general topology

最近, こんな問題を見ました: 『f : R^2 \to R を, f(0)= 0 で, f(z) ≠ z for all z ∈ R^2 - {0} なる連続写像とする時, f(z)> 0 for all z ∈ R^2 - {0} もしくは, f(z)<0 for all z ∈ R^2 - {0} のどちらかが成り立つことを示せ.』 証明には, 中間値の定理…

完全性定理の応用

今回の数学エッセーは、比較的シンプルなものとなります。 『完全性定理を応用した定理は、何がありますか?』 こんな質問を見かけました。 この答えには、重要なものがあります。 BGE が ZFC の保存拡大になっていることの超限的証明が、 それです。 完全性…

ルベーグ積分についてのある質問

解析学のネタです。 某掲示板で、こんな質問を見かけました。 R 上の実数値ルベーグ可積分関数列 (f_n) に、 ルベーグ可積分な優関数 g が存在し、 各点 x ∈R に対し、極限 lim _{n→∞} f_n(x) = f(x) が存在するとき、 f(x) は再びルベーグ可積分となり、 ∫ …

ねじれの位置にある直線と直交する線分

今回の数学エッセーでは, 次のことを証明します: 『L_1, L_2 を R^3 のねじれの位置にある直線とする時, a_i ∈ L_i (i = 1, 2) をただ1組取って, ベクトル a_2 - a_1 が L_1 と L_2 の どちらとも直交するようにできる.』 証明: 平行移動により, 初めから, L…

数学のモデルについての問題

ある掲示板で, 次のような問題を見かけました: T をペアノの算術を実質上含む, 帰納的に公理化可能な, 無矛盾な形式的体系とするとき, T の論理式 A と T のモデル M, N で, M 内で A は真であり, N 内で A が偽であるようなものが存在することを証明せよ. …

数列の収束と発散

ある掲示板で、このような問題を見つけました。 級数 Σa_n が絶対収束するならば、 級数 Σ(a_n)^2 も絶対収束することを証明せよ。 これは簡単です。 Σ a_n が絶対収束することにより、 ある番号 から先、|a_n| < 1 よって、ある番号から先、 |(a_n)^2| < |a…

言葉の持つ二重の意味と数学

今回は, 一つの言葉が二つ以上の意味を持つ時, それをそのまま数学に適用すると 間違いを犯す場合がある, と言うお話をします. より詳しく言うと, ある名詞 A が二つの意味 B, C を持つ場合. ある場合では 名詞 A を B の意味で使い, 別のある場合では 名詞 …

大学数学から眺める高校数学~指数関数, 対数関数の微分法.

今回は, 高校で習う指数関数, 対数関数の微分を, 大学数学側から眺めてみます. 高校生向けのエッセーですから, 指数関数の定義にまつわる難しい議論はせず, 以下の性質を直感的には明らかであろうと言う理由で, 公理として認めます. 以下, a>0 は 1 以外の正…

線型空間とその双対が標準的に同型でないことの証明.

今回の数学エッセーでは, 前回の標準的に同型の概念についての記事 に引き続き, 有名な次の定理を証明したいと思います: 標準的に同型と言う概念の定義については, 上記の過去記事を参考にされてください. K を可換体, A を有限次元 K 線型空間と K 線型射像…

標準的に同型, 標準的な同型 と言う概念

今回の数学エッセーでは, 数学の本や論文によく現れる, 「標準的に同型」ないしは「標準的な同型」 と言う用語について解説したいと思います. 「同型」と言う言葉だけならば私たちは即座に, 誤解を伴わずに理解できますが, これに「標準的に」または「標準的…

形式的体系のモデルと LK

今回の数学エッセーでは, 次の命題について, 簡単な解説を試みます. もちろん, きちんとした証明は長くなりますので, 文献を紹介するにとどめます. 命題 T は述語論理よりも強い形式的体系, A は T の論理式で, T の任意のモデルに関して A は真と仮定する. …

ユークリッド空間の連結開集合

今回の数学エッセーでは, ユークリッド空間の連結開集合 U の任意の 2 点 x, y に対し, x, y を結ぶ, 座標軸に平行な U 内の線分からなる 折れ線 L が存在することを証明します. x∈U を固定します. 座標軸に平行なU 内の線分からなる折れ線で, x と結べる U …

単調減少関数の導関数

今回は, Yahoo 知恵袋にあった, 以下の質問について, 取り扱います. f : [0, +∞[ → R が C^1 級で単調減少, lim _{x → +∞} f(x) が存在するとき, lim _{x → +∞} Df(x) = 0 となるか? ここでは, f が狭義単調減少の場合の反例を手短に構成してみます. g : [0,…

数学的帰納法の正しさについての話題

今回は, ある質問サイトで見かけた, 数学的帰納法がなぜ正しいのか? という話題です. 実は, 数学的帰納法が「正しい」と言う時, その意味は, 大きく分けて, 次のふた通りの問題に解釈できます. その 1 数学的帰納法は, 数学のもっと基礎的な考え方から証明で…

確率分布の分散と標準偏差, 不偏推定量についてのはなし

今回の数学エッセーでは, 確率分布の不偏推定量について, 分散と標準偏差の例を扱います. 独立確率変数 X_1, ・・・, X_n が同一の分布 F に従い, 分布 F は 2次のモーメントまでを持つとします. μ を F の平均, V を F の分散とします. つまり, X を F に従…

ベール空間と微分可能関数

今回, ある掲示板で見かけた, 次の問題について論じます. f : R → R を, f(x) = 1 ・・・ x が有理数の時. f(x) = 0 ・・・ x が無理数の時. で定義する時, g に関する微分方程式 Dg(x) = f(x) を解け. 答え 解なし. なぜかと言うと, 以下の定理が成り立つか…

実対称行列の平方根

今回の数学エッセーでは、Yahoo 知恵袋の数学質問コーナーで見かけた、 以下の問題について、論じます。 (Yahoo ブログから、引っ越してきています。) 問題: A を実対称行列とするとき, B^2 = A となるような 実対称行列 B が存在するための必要十分条件を…

商多様体の文献

今回、商多様体の文献を紹介します。 title: C^∞ differentiable spaces Juan. A. Navarro Gonzalez Juan. B. Sancho de Salas 共著 です。 本の方は、 p.129 から、可微分多様体の同値関係による 商位相空間に多様体構造がつくための必要十分条件、 及びそ…

9 ÷ 0 = ? 算数の話

今回は、この話題について解説します。 「9 ÷ 0 = ?」 割り算を習いたての、小学校低学年の子供にどうやって 理解させれば良いでしょうね? まず、いきなり 0 で割らないで、 9 ÷ 2 くらいから始めてくださいね。 9 ÷ 2 = 4 あまり 1 ですね。 この意味は、 …

濃度 (cardinarity) の概念の数学における使用例

ある人が、このような質問をされていました。 「基礎論以外の数学で、濃度はどのように使われていますか? 病的な反例への使用を除いて。」 この質問には、僕は答えを持っています。 僕の修士論文の、本文 p.25 (pdf の通し番号で、26 ページ目) をご覧く…

置換公理と順序数 ω+ω

今回は、ZF 集合論から置換公理を除いた形式的体系 Z からは、 順序数 ω+ω の存在が証明不可能であることを示します。 以下に、証明のアウトラインを述べます。 まず、Z に於いては、順序数の概念は、 ZF 同様、次のようにして定式化されます。 x が順序数で…

連続な周期関数はリプシュッツ連続になるか

タイトル通りの問題を論じます。 これは、某質問サイトで見かけた、数学の問題です。 結論を先に言います。 関数 f : R → R が連続な周期関数の時、 f は必ずしもリプシュッツ連続とはなりません。 反例 f(x) = Arcsin x (-1

微分の極限交換可能性

Yahoo 知恵袋で、下記のような質問を見かけました: I を R の区間, f : I → R を微分可能関数, a∈I とするとき、 lim_{x→a, x≠a} lim_{h→0, h≠0}(f(x+h)-f(x))/h = lim_{h→0, h≠0} lim_{x→a, x≠a} (f(x+h)-f(x))/h i.e., lim_{x→a, x≠a}Df(x) = Df(a) が常…

Yahoo! 知恵袋での, 数学の質問に対する解答ミスの修正.

今回、Yahoo 知恵袋で、巡回群の単数群についての質問で、 私が間違った回答をしてしまったので、ここに訂正します。 まず、以下の質問 http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q13161559563 Z/42Z の単数群は、Z/41Z に同型と言ってます…

代数系における準同型定理 Part 2

さて、今回も、代数系における準同型定理についての論説です。 Part 1 に引き続いて、 Part 2 では、群の準同型について論じます。 群や部分群、正規部分群などの定義については、 良く知られているので、既知とします。 また、群の算法は、乗法的に書くこと…

代数系における準同型定理 Part 1

今回は、代数系における準同型定理について、論じます。 この論説はすでに、ブルバキの代数のシリーズによって、 とうの昔に定式化されていますが、 これから群論をはじめとする代数学を学ぶ数学科の学生さんたちにとっての 一助となれば、幸いです。 まず、…

無限基数の冪等法則 card (A×A) = A

今回は、任意の無限基数 A に対し、 A^2 = A なることを証明したいと思います。 証明、と言っても、私のオリジナルではなく、 良く知られた証明方法を紹介するだけです。 さて、積集合 A×A 内の整列順序 R を, (x, y), (z, w) ∈ A×A に対し、 (x, y) R (z, w…

S^1 から R への 1-1 連続写像

今回、次のことを証明します 定理 1 円周 S^1 から数直線 R への 1-1 連続写像は存在しない。 言い換えれば、S^1 を R へ、連続的に埋め込むことはできない。 証明 仮に、f : S^1 → R を、1-1 連続写像とする。 S^1 は連結空間で、 連結空間の連続写像による…